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ヒンデミット 「ヌシュ=ヌシ」 アルブレヒト指揮ベルリン放送so.

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ヒンデミットの珍しい舞台作品を紹介します。
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  ヌシュ=ヌシ Op.20 (1920)
  (一幕のビルマの人形劇、フランツ・ブライの台詞による)

   ムン・タ・ビャ(ビルマの皇帝)・乞食・伝令1・詩人2: ハラルト・シュタム(Bs)
   ラクヴェン(王子): マルテン・シューマッハー(語り)
   キセ・ヴァイン将軍・儀典長: ヴィクトル・フォン・ハーレム(Bs)
   刑吏: ヨーゼフ・ベッカー(Bs)
   スズリュ(宦官): デイヴィッド・クナットソン(Tファルセット)
   トゥム・トゥム(ツァトヴァイの家来): ヴィルフリート・ガームリッヒ(T)
   カマデヴァ・詩人1: ペーター・マウス(T)
   伝令2: アレハンドロ・ラミレス(T)
   バンザ(皇帝の第1の妻)・娘1: ヴェレーナ・シュヴァイツァー(Sp)
   オザザ(皇帝の第2の妻): セリーナ・リンズレー(コロラトゥーラSp)
   トヴァイゼ(皇帝の第3の妻)・娘2: ガブリエーレ・シュレッケンバッハ(A)
   ラタサタ(皇帝の第4の妻)・娘3: グドルン・ジーバー(Sp)
   踊り子1: ジョルジーヌ・レーシック(Sp)
   踊り子2: ギゼラ・ポール(A)
   猿1: ヴェルナー・マルシャル(T)
   猿2: マンフレッド・クレバー(T)
   指揮: ゲルト・アルブレヒト
   管弦楽: ベルリン放送交響楽団
   1987年3月23-25日録音
   CD:WERGO WER60146-50


私の通っていた高校は、まぁ昔の事とて学習指導要領なんぞ屁とも思わぬ変わり者の教師が何人かいて、今も懐かしく思い出すのはそういった先生たち。例えば世界史の先生は一年間掛かって古代ギリシャが終わらないといった調子ですが、中でも漢文の先生は教科書なんぞ全く使わず、史記列傳の抜粋なんかで今思えば大変貴重な講義をされていました。特に司馬遷が武帝の怒りをかって宮刑に処せられ、その失意から立ち上がって史記52万字余を完成させた経緯を熱く語ってくださったことは今も鮮明に覚えています。

「ヌシュ=ヌシ」を聴きながらふと昔のことを思い出しましたが、こちらは司馬遷のうけた屈辱とは大違いのおふざけぶり。もっとも、このオペラのシノプシスは、少なくとも英語で読めるネット上の情報はどれもこれも中途半端で、たくさんの人物が登場するこのオペラ(というかビルマの人形劇)の物語についてはさっぱり要領を得ませんでした。CDはドイツ語のリブレットが附いているだけマシですが、せめて英語の対訳があれば、と思います。いくつかの情報をつなぎあわせるとこんなお話かと・・・。

貴族ツァトヴァイの家来トゥム・トゥムは皇帝ムン・タ・ビャの後宮からつぎつぎと主のために女をかどわかしていた。ある日、欲望の神カマデヴァが、巨大なねずみと鰐の合体したような妖怪ヌシュ=ヌシに跨ってトゥム・トゥムに吉報を告げる。飲んだくれの老将軍キセ・ヴァインがヌシュ=ヌシに躓いて押しつぶしてしまう。将軍はそのときヌシュ=ヌシに金玉を食いちぎられてしまうが、トゥム・トゥムのおかげで命拾いをしたので彼に褒美をつかわし家来にする。ツァトヴァイの悪事が露見し、皇帝の召喚をうけたトゥム・トゥムはすべては主人の指図の所為だと言い張るが、そのおかげで新しい主人の将軍キセ・ヴァインが宮刑に処せられることになる。いざ玉切り役人が将軍の金玉を切ろうとするが、それはどこにもなかったとさ。

別の情報ではヌシュ=ヌシは緑色のinflatable pool toy(プールで使う鰐などの形のビニールのおもちゃ)みたいだと書かれていました。また、nuschとはnutsすなわちtesticlesのことだとも。いずれにしても、どの解説も申し合わせたようにこの台詞がobsceneであると書かれています。
そんなわけで台詞の詳細は判らずじまいですが、音楽は実に面白い。冒頭のひょうきんなトゥム・トゥムのテーマはどことなくプッチーニ風で、「ジャンニ・スキッキ」からインスパイアされたであろう作曲経緯を忍ばせます(ヒンデミットとプッチーニを繋ぐ存在としてフェルッチョ・ブゾーニを忘れてはいけないのかも知れませんが、それはまた別の機会に)。これに続いて無調すれすれの舞曲や、ペンタトニックによる猥雑な踊り、二人の踊り子と二匹の猿が歌う濃密な夜の気配ただよう怪しくも美しい音楽、宦官がうたうファルセットの歌や、皇帝の歌うワーグナーのパロディ等々、実に多彩。あるいは皇帝の4人の妻たちが次々と歌うところは、「アリアと変奏」と題されていて、こんなところもいかにもヒンデミットらしいと思いました。1920年という時点でのオリエンタリズム&モダニズム音楽の集大成といった趣もあって、バルトークのパントマイム「中国の不思議な役人」やストラヴィンスキーの歌劇「うぐいすの歌」と並べると20世紀音楽史上の一大奇観をなすように思えます。以前とりあげた「聖女スザンナ」同様、ヒンデミット自身が後に封印してしまったこともあって、これら初期作品の評価はまだまだこれから、というのが実情かも知れません。
こんなマイナー・オペラでもIMSLPでヴォーカルスコアがDL出来るのがちょっと驚きでした。せっかくですので、皇帝の歌のところ、すこし譜例を挙げておきます。
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後宮の女たちを次々に寝取られた嘆きの歌のようですが、ここはワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」第2幕のマルケ王の歌"Mir dies?Dies, Tristan, mir?"のパロディになっています。歌詞もTristanをKyce Waingに換えた他はほぼ一緒。多彩な打楽器を含むオーケストラを用いているのに、ここだけやけに貧粗なオーケストレーションというのもワーグナー(というよりもワグネリアン達)に対する悪意のなせるわざでしょうか。

演奏について巧拙を云々するのは、こういった珍しい演目の場合あまり意味があるとは思えませんが、アルブレヒトの指揮、多くの歌手ともども大変すぐれた演奏だと思います。トゥム・トゥムと二人の踊り子が幾分歌う場面が多い他は、つぎつぎと現れては消えていく役柄が多いのですが、どの歌手も所を得たものです。アルブレヒトはこういったドイツ・モダニズムの音楽のエキスパートと言ってよいと思いますが、私が初期ヒンデミットの特色と考えている強迫的な音楽をドライブする力や、第2場の官能的な夜の音楽など素晴らしいと思いました。

余談だが、この「ヌシュ=ヌシ」の全曲盤CD、日本のamazonだと中古品で8,197円、新品だと12,395円という高値がついています。私はamazonUKで買いましたが、そちらだと送料込で2,973円、正味10日ほどで手元に届きました。中古屋さんの商売の邪魔する気はないですが、いくら激レア・アイテムでもこれはちょっと酷いんじゃないかと思った次第。
(この項終り)
by nekomatalistener | 2014-08-13 15:50 | CD・DVD試聴記 | Comments(0)