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ロッシーニのファルサを聴く(その3)~「絹のはしご」

「ダンソン!フィーザキー!」のあとの「トゥーザティーサーザコンサー」のかわりに、辻本茂雄の「ゆるしてやったらどうやー」をつなげてみると意外にしっくりする。





ロッシーニのファルサを聴くシリーズ、今回は序曲だけはそこそこ有名な「絹のはしご」。

 ロッシーニ 絹のはしご La Scala di Seta
 
  ジェルマーノ: アレッサンドロ・コルベッリ(Bs)
  ジューリア: テレーザ・リンクホルツ(Sp)
  ドルヴィル: ラモン・バルガス(T)
  ブランサック: ナターレ・デ・カロリス(Bs)
  ルチッラ: フランチェスカ・プロッヴィジョナート(MS)
  ドルモン: フルヴィオ・マッサ(T)
  マルチェッロ・ヴィオッティ指揮イギリス室内管弦楽団
  1992年10月13-15日録音
  CD:BRILLIANT CLASSICS92399/3-4


私はこれまでにも何度か書いた通り、ロッシーニという人は一作ごとに成長していくタイプの作曲家ではなくて「結婚手形」で世にでた時からスタイルがほぼ完成されていた早熟の天才だと考えています。それにしても、39作ほどのロッシーニのオペラのなかで第6作である本作の完成度はどうだろうか。ここにはロッシーニときいて我々が思い浮かべる、あの愉悦に満ちたロッシーニ・クレッシェンドや、巧緻繊細の極を行くアジリタで飾られたアリア、あるいは明るい太陽の下の事物のようにくっきりとした姿でありながら、一筋の哀愁を刷毛でさっと刷いたようなカヴァティーナの全てが一幕のなかに盛り込まれています。ただ、ここにないもの、この作品では得られない要素を敢えて言うなら、音楽による官能表現ということになるでしょうか。そもそも「絹のはしご」とは、年頃の娘が二階の寝室のバルコニーから男を招き入れるために垂らすあの(映画などでお馴染の)シーツみたいな布のこと。そのタイトルの醸し出す艶めいた要素は実際の音楽にはあまりなくて、ひたすらドタバタめいた芝居と湿り気の少ない知的な音楽が続いていきます。

日本ロッシーニ協会のHPに載っているあらすじや音楽の詳細な解説に私が付け加えることは殆どありませんのですこし雑談を。

http://societarossiniana.jp/lascaladiseta.2011.pdf

IMSLPで検索してみると、序曲やドルヴィルのアリアを除いてはオーケストラ・スコア、ボーカル・スコアともさすがにアップされておりませんが、マキシミリアン・ヨーゼフ・ライデスドルフというピアニスト兼作曲家によるピアノ独奏用の編曲の譜面が挙がっていて若干興味を惹かれました。内容的には序曲と8つのナンバーの全てを含んでいるものの、レチタティーヴォ・セッコは勿論、繰り返しの部分を始め、いたる所で大幅なカットが施されています。その編曲は、簡単な左手の伴奏と右手による歌唱旋律の組み合わせが主ですが、音符が込んでくると両手とも伴奏のみとなってしまう中途半端なスタイル。念の為に言うと、ボーカルスコアではないので歌のパートというのは別段記されていません。やっつけ仕事というか、リストが盛んに書いたオペラ・パラフレーズなどとは比べるべくもないクォリティの低さですが、自宅の居間でピアノに指を置きながら、昨夜のオペラの興奮を思い出すにはこれで十分といったところ。このようなオペラの編曲譜にどれぐらいの需要があったのかよく知りませんが、それなりにビジネスになる程度には売れたのでしょう。現代の我々が、CDやDVD、あるいはyoutubeといったメディアで様々なオペラを家に居ながらに何時でも楽しめることを、なにか文化的な進歩とでもいうように考えがちですけれど、上記のような編曲が出版されていて、そこそこピアノが弾けさえすれば容易にオペラの全曲をさらっとさらうことが出来た19世紀の文化状況と比べて実のところどうなんだろう、という思いがあります。

この音源の話に戻りますが、歌手もオーケストラも実に素晴らしい演奏で文句のつけようがありません。どう考えても世界の一流どころが駆けつけて録音するような代物でもないというのに、なんという演奏者の層の厚さだろうか。ジューリアを歌うテレーザ・リンクホルツのアジリタの巧さは唖然とするほどですが、それだけでなく後見人には内緒で既に結婚している人妻ならではの落ち着きを感じさせるところが素晴らしいと思います。
ドルヴィル役のラモン・バルガスはそこそこ名が売れてきているみたいだが、アジリタがきちんと歌えてしかも輝きのある声。他の脇役たちもいずれも適役。生気にみちた管弦楽も魅力的。単に競合盤が少ないということでなく、本当に聴く値打ちのある一枚だと思います。
(この項終り)
by nekomatalistener | 2015-03-22 00:54 | CD・DVD試聴記 | Comments(0)
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