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イーヴ・ナット Yves Nat Ses Enregistrements 1930-1956(その10)

これはピアノ弾きには痛い指摘(笑)。
  クラオタの毒舌な妹bot‏@claotas_bot8月5日
  お兄ちゃん。そんなにクラシック好きなのにどうしてハ音記号も読めないの?





シリーズ10回目。シューベルト、ショパン、ブラームス、ナットのレパートリーとしては周辺的であったであろう作品を集めた一枚。

  CD9
  シューベルト
    楽興の時 D.780 [1952.5.6以前の録音]
  ショパン
    ピアノ・ソナタ第2番変ロ短調Op.35「葬送」 [19533.6.録音]
    幻想曲ヘ短調Op.49 [1953.3.6.録音]
    舟歌嬰へ長調Op.60 [1953.3.6.録音]
    ワルツ第14番ホ短調(遺作) [1930年録音]
  ブラームス
    2つのラプソディOp.79 [1956年録音]

シューベルトのピアノ・ソナタのような大曲はごく僅かしか彼の生前に出版されなかったと言いますが、「楽興の時」D.780は1823年とその翌年に第3曲と第6曲がそれぞれザウアー&ライデスドルフから出版された『音楽アルバム』に掲載され、1828年の彼の死の直前に6曲まとめて作品94として出版されました。第3曲が突出して有名ですが、シューベルトは一体誰を対象に、あるいはどのような機会を想定してこれらの作品を書いたのかが気になるところ。技巧的には平易な作品なので、おそらくプロがサロンのリサイタルで弾くためではなく、アマチュアが家庭で演奏することを想定しているのでしょう。子供の頃に即興曲集と一緒にレッスンで学んだ方も多いはず。それだけにプロが弾いて人に耳を傾けさせるのは意外に難しいという気がします。また、現代の我々が聴くと、そこに単なるハウスムジークの愉楽にとどまらないある種の瞑さや晦渋さのようなものが感じられ、ベートーヴェンのバガテル集と並んでブラームス晩年の小品集Op.116~119の先駆としての性格も認められます。
ナットの慈しむような演奏はこういった作品の性格にとてもよく合っている感じがします。終曲の無垢なる深遠さに静かに焔が宿るさまはハウスムジークの領域を遥かに飛び越えています。ひとつ気になったのは第2曲が調律の所為でところどころ耳触りな音が鳴ること。単に調律が拙いのか、それとも昔のフランスではこういう調律法もあって、変イ長調の属和音だと濁るのか。お詳しいかたの御教示をお待ちしております。

ショパンはいずれも超が附く位の有名曲ですので、作品そのものについて私があれこれ蘊蓄めいた事を記す必要はないでしょう。
ナットの演奏だが、2番ソナタは技巧が追い付かずに破綻しているところが多く、ピアニストのお仕事として弾かざるを得なかったにしても少々痛々しい感じがします。しかしその瑕に耳が慣れてくると、剛毅な表現がそれなりに味わい深く、彼が表現したかったことが見えてきて瑕が気にならなくなるのが不思議。特に最初の二つの楽章はミスタッチをものともせず、あるべきフレージングに徹して弾いているのが感じられ、思わず居住まいを正してしまう程。第3楽章の葬送行進曲はラフマニノフ盤に倣い、前半はpからffへ、後半はffからppへ、という外連味たっぷりの演奏だがナットのアプローチには合わない。それより何より、この改変はラフマニノフだから許されることであって少々頂けない。
「幻想曲」も惜しむらくは細部の磨きあげと響きの純度が不足しているものの、骨格は素晴らしいプロポーションで私は大いに気に入りました。技巧面で彼に数倍優る演奏家が、細部の精巧さに淫して崩れそうな演奏をするケースと比べれば遥かに好ましく思います。
「舟歌」は、私にとって「幻想ポロネーズ」と並んで大好きな作品ですが、「幻想曲」と同様のアプローチで謹聴に値する演奏でした。もちろんホロヴィッツのような不健康さというか、病的な陰りはナットには望むべくもないが、嬰ヘ短調poco più mossoからの中間部はショパンの深淵に迫るものを感じました。
遺作のホ短調ワルツはおまけみたいなものだが、SP時代のナットは颯爽としたテンポとテクニックでそれなりに聴かせます。

ブラームスの「2つのラプソディ」。少し前のアマチュアコンクールの定番曲というイメージがあるが、最近は流行らないのか、あまり聴かない気がします。少し手の大きな人であればアマチュアでもそれなりに勢いで弾けてしまうのだが、実はプロにしてもなかなか良い演奏は難しい(弾いている本人だけはけっこうカタルシスを感じているのが困ったものww)。ブラームスにしては作品そのものの出来も今一つという気がして、いずれにしても難物でしょう。
ナットの演奏も悪くはないのですが、作品の評価を塗り替えるほどのものは感じられませんでした。以前取り上げたヘンデル・ヴァリエーションやOp.117が素晴らしい演奏だったので、どうせなら晩年のその他の作品、例えばOp.119あたりを録音しておいてくれたら良かったのに、とまぁこれは無い物ねだり。
(この項続く)
by nekomatalistener | 2013-08-08 02:07 | CD・DVD試聴記
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