このパリ管の副コンマス(パリ在住)の方のツイッターわろたわ~。
千々岩英一@EiichiChijiiwa 国営放送のニュースで世界遺産登録の富士山(モン・フュジ)が。「日本人は敬称を付けて富士さんと呼びます。」初めて聞いたわ。 前回の続きです。 【第3幕】 第9曲:前奏曲とシェーナ Preludio e Scena モンフォルテの独白によって、彼とアッリーゴが離れ離れになった経緯が語られる。 短い前奏と簡潔なシェーナ。 第10曲:レチタティーヴォとアリア Recitativo ed Aria ベテューヌ卿からアッリーゴを拉致してきたとの報告を受けたモンフォルテは、彼の心が開かれ、親子として打ち融け合うことを夢想する。 明確なカバレッタを持たないアリア。剛直なだけでなく味わい深い旋律(特に嬰へ長調に転調してからの部分)など、この時期のヴェルディらしさが良く出ています。 第11曲:レチタティーヴォと二重唱 Recitativo e Duetto 捉えられたアッリーゴはモンフォルテから母の遺した手紙を見せられ、ついに親子であることを知る。しかし様々な想いによってアッリーゴはモンフォルテを父と呼ぶことが出来ず逃げるように部屋を出て行く。 またしても父と息子の二重唱。ここでもステロタイプな伴奏から脱却しようとする意気込みが顕著です。朗々とアリアを歌いあげる父に対してパルランドで動揺を顕わにするアッリーゴの対比。二重唱の後半は白熱のカバレッタ。前段でパルランドでうたっていたアッリーゴは後半に至って主旋律を歌い、亡母への思いのたけを歌います。 第12曲:バレエ「四季」 Le Quattro Stagioni BalloⅠ~Ⅳ モンフォルテの邸宅で舞踏会が開かれ、フランスとシチリアの紳士淑女の前でバレエが上演される。 第13曲:第3幕のフィナーレ Finale Terzo 華やかな仮面舞踏会に紛れて、仮面を着けたプローチダとエレーナ公女が忍び込み、モンフォルテの命を狙っている。アッリーゴはモンフォルテにその場を立ち去るよう頼むがモンフォルテは相手にしない。モンフォルテを見つけたエレーナは匕首(あいくち)を手に襲いかかるが、アッリーゴが自ら盾となってモンフォルテを庇う。プローチダ、エレーナ、シチリア人達は捕らえられアッリーゴを裏切者と非難する。 設定は「仮面舞踏会」そのものだが音楽はどこか「椿姫」の娼館での宴の場を思わせる。ヴェルディお手の物の華やかな音楽に合わせて緊迫した状況が歌われます。後半はエレーナ、アッリーゴ、ダニエーリ、モンフォルテ、プローチダ、ベテューヌの六重唱と合唱による壮大なコンチェルタートですが、後の立体的なアンサンブルの域には達していません。もっと後のヴェルディならシチリア人とフランス人、そのどちらにも与しえないアッリーゴに各々別の旋律を歌わせ、それが対位法的に絡み合い、重なりながら壮大な合唱になっていくべき箇所。だが、過渡期的とはいえ実に感動的な音楽。 【第4幕】 第14曲:前奏曲、レチタティーヴォとアリア Preludio, Recitativo ed Aria エレーナ達が繋がれた牢獄。アッリーゴは弁明のためにそこを訪れ、エレーナの許しを得たいと独白する。 ここでもステロタイプなアリアから脱却しようという意思が顕著。シェーナの充実にくらべ、カヴァティーナはやや常套的、しかし続くシェーナは本来のカバレッタと溶融してしまってます。 第15曲:大二重唱 Gran Duetto エレーナ公女が登場、最初アッリーゴを忌々しく思うが、モンフォルテが彼の父と聞いて心が動く。もはや家名も財産も捨て、エレーナとともに死ぬことを望むアッリーゴを彼女は許し、愛の二重唱を歌う。 幾分因習的な二重唱と見せかけておいて、型どおりのカヴァティーナの後に長大なエレーナのロマンツァが埋め込まれています。この部分はドニゼッティやベッリーニのベルカント様式を忠実に守っており、ヴェルディはわざわざ2種類のカデンツァを書いています。このあと、型通りのカバレッタの二重唱が続きます。 第16曲:シェーナと第4幕のフィナーレ Scena e Finale Quarto そこに現われたプローチダはアッリーゴを許そうとしない。モンフォルテがベテューヌ卿やフランス人士官達と共に現われ、罪人を死刑に処すよう命令するが、アッリーゴがエレーナ達と死を共にするつもりでいるのを見ると、自分を父と呼ぶなら恩赦を与えようと持ち掛ける。苦悩の末にアッリーゴが「父上・・・」と呼びかけると、モンフォルテは刑の執行を止めさせ、エレーナとアッリーゴの結婚と、シチリア人とフランス人の和解を命ずる。 拡大されたシェーナで息詰まるドラマが展開されます。カヴァティーナに相当するプローチダ、モンフォルテ、アッリーゴ、エレーナによる素晴らしい四重唱。ここではプッチーニばりの「字余り」の5/4拍子が2回でてくる。音楽の推進力を信じて、こういう記譜をやってのけるところが天才の天才たる所以。続いて、舞台裏で聖歌「深き淵より」を歌う合唱にのせて、プローチダ、モンフォルテ、アッリーゴ、エレーナが歌う自由なシェーナ。カバレッタに相当する後半は四重唱に合唱も加わって壮大なフィナーレとなるが、音楽的にはやや因習的。かりそめの歓びが爆発する中でのエレーナとアッリーゴの複雑な心境、プローチダの暗い情念を盛り付ける器をヴェルディはまだ見出していないようです。 【第5幕】 第17曲:合唱 Coro 二人の祝宴を祝う人々の合唱。 第18曲:シチリアーナ Siciliana 婚礼の衣裳をまとったエレーナがシチリアーナのリズムで歓びを歌う。 このナンバーは、重苦しい作品の中での聴衆へのサービスのようなものだろう。 第19曲:シェーナとメロディア Scena e Melodia アッリーゴが現われ、やさしくエレーナに語りかけるが、すぐに数人の紳士が彼を探しているのに気付き、モンフォルテのところに行くと言って立ち去る。 ト書きにはアッリーゴは物思いに沈んでいるとされているが、音楽はいたってのんきなもの。おわりにハイCの上のDまで上がるとんでもないカデンツァが書かれていてテノール殺しと言われているらしい(このCDのルケッティはファルセットで歌って派手に音程を外してますw)。これは音楽的にもあまり良い趣味とは思えない。 第20曲:グラン・シェーナと三重唱によるフィナーレ Gran Scena e Terzetto Finale プローチダがエレーナに近付き、反乱軍がすぐ近くまで来ていること、婚礼の鐘を合図にフランス兵を殺戮することになろうと告げる。エレーナは戻ってきたアッリーゴに結婚は出来ないと告げるが、モンフォルテは二人の手を無理に重ね合わせて夫婦の宣言をする。すかさずプローチダが祝福の鐘を鳴らすよう合図をする。鐘と同時にシチリアの暴徒達が手に手に武器を持って現われ、復讐を叫ぶところで断ち切るように唐突に幕(それにしても、この作品を引っ提げてパリで初演するとはヴェルディもいい度胸です)。 プローチダ、エレーナ、アッリーゴの三重唱を中心とするフィナーレ。プローチダの陰謀を知るエレーナと知らないアッリーゴ。カヴァティーナに該当する部分、ロ短調で始まる三重唱がアッリーゴの歌うところでロ長調になるのが印象的。カバレッタはヘ短調のアレグロで緊迫した状況が語られる。白熱の音楽ですが、初期のそれとは明らかに異なる陰影のある音楽だと思います。最後は婚礼の鐘を合図に蜂起した群衆の禍々しい合唱が起こり、たたみかけるように終わってしまいます。 演奏について少しだけ触れておきます。 エレーナ公女を歌うレナータ・スコットですが、1978年の録音時は44歳、微妙な年齢ですがこのディスクで聴く限り明らかに盛りを過ぎている感じがします。しかしそれでも立派な歌唱。第1幕第2曲のアジリタもビシッと決まっていて素晴らしい。第4幕、アッリーゴとの二重唱に埋め込まれたロマンツァは本当に優れた歌唱で、聴衆の感に堪えないといったブラーヴァの叫びも熱狂的。スコットへの聴衆の愛、温かさを感じます。もちろん5幕のシチリアーナも文句なしに素晴らしい。 アッリーゴを歌うヴェリアーノ・ルケッティとモンフォルテのレナート・ブルゾンは傑出しています。第1幕フィナーレの父と息子の二重唱も良いが、ブルゾンの第3幕冒頭のアリアは聴衆のブラヴォーの叫びと拍手が1分以上鳴りやまないほど。続くルケッティとの二重唱の後、すさまじいブラヴィの叫びが起こり、拍手が1分40秒も続く。だが第4幕冒頭のアッリーゴのアリアは、ルケッティの最後のh(ハイCの一音下)の音が上がりきらず、聴衆もちょっと冷たいあしらいをしている。このディスク、ライヴ故聴衆の反応がよく判ってとても面白い。 プローチダを歌うルッジェーロ・ライモンディは恐らく好き嫌いの分かれる歌い方。軽めで知性の勝った歌い方はロッシーニなどに意外なほどの適性を示すことがあるが、ヴェルディ歌手としては僅かに違和感がある、というのが私にとって正直なところ。このオペラのプローチダという役柄自体、どこか得体の知れないものだが、ライモンディが歌うと尚更老獪に聞こえて、「本当にこういう役なのか?」と不思議に思ってしまいます。 脇役達はまぁこんなもの、という感じですが、どちらかと言えばフランス側が充実していてシチリア側がやや貧相。第1幕のニネッタやダニエーリを含む四重唱は音程が悪くて何を歌っているのか判らない(笑)。 合唱は荒削りの魅力はあるけれど、はっきり言ってかなり下手。第2幕フィナーレのタランテッラの後のシチリア人の合唱など、もごもごと音程も悪くて、やはり「何を歌っているのか判らない」(笑)。スカラ座は別格として、イタリアの地方都市のオペラの合唱のレベルってこんなものなんだろうか?日本の新国立劇場の合唱を聴きなれている身には信じがたいくらい下手です。 ムーティの指揮は素晴らしい。音楽祭のための寄せ集めらしいオーケストラは正直あまり上手くはないのに、輝かしさに溢れています。こういう録音を聴くと、本当に日本のオケは精密さという点では優秀だがイタリアオペラに不可欠な輝かしさという点で(多少の例外はあっても)まだまだ学ぶべきところが多いと思います。 ムーティの凄いところは、ステロタイプな伴奏、ズンチャッチャ・・・みたいな伴奏から真実に満ちた音楽を引き出すこと。これこそがムーティのベルカントものから比較的初期のヴェルディの演奏をかけがえのないものにしている理由でしょう。例えば一例として、第1幕フィナーレのプレスティッシモのカバレッタ。大胆なソステヌートやアラルガンドを駆使して聴衆の鼻面を引きまわすような音楽を奏でています。これはアバドのヴェルディでは絶対に期待できないムーティの強みでしょう。ちなみに、アバドも優れたヴェルディ指揮者だと思いますが、その嗜好はムーティとは随分違います。アバドが好んで演奏していたヴェルディといえば何と言っても「シモン・ボッカネグラ」、それに「マクベス」「ドン・カルロス」「仮面舞踏会」・・・まさに苦渋に満ちた中期作品ばかりではありますが、「シチリア島」はアバドには少々初期のカラーが強すぎたのでしょうか。アバドは若い頃はベルカントものも振っていたようですが名を上げてからはあまり振っていないようですね。対するにムーティのヴェルディで真っ先に思い浮かべるのは白熱の初期作「エルナーニ」に「ナブッコ」。そしてこの「シチリア島」ということになるのでしょうか。アバドとは対照的に、ムーティはベルカントものも大好き。日本でやったベルリーニの「カプレーティとモンテッキ」は神技的な名演でしたし、CDで聴いた「清教徒」も素晴らしかった。確かスポンティーニやケルビーニなども好評だったはず。そういえばアバドはヴェリズモものは一切やらないのに対して、ムーティはあまりこだわりがない。ムーティのほうがより雑食性かつ肉食系ですね。私はどっちも好きだけど。 こんなこと書いていると今秋のスカラ座公演行きたくなりますね。私はあまりにも高価なチケットにびびって、早々に諦めました・・・。あとは新国立の「リゴレット」に期待。 (この項終わり)
by nekomatalistener
| 2013-06-25 19:36
| CD・DVD試聴記
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