<< 新国立劇場公演 モーツァルト ... ブリテン 「ビリー・バッド」に... >>

【ネタバレ注意】新国立劇場公演 ヴェルディ 「ナブッコ」

拾いネタですが・・・
Q:ネロとパトラッシュを迎えに来た天使たちがもめています。その原因を教えてくだされ。
A:パトラッシュがめっちゃ臭い。





ヴェルディ・イヤーに相応しく今シーズン二つ目のヴェルディ作品。結果はとても面白く興奮する舞台でした。

  2013年5月25日
  ナブッコ: ルチオ・ガッロ
  アビガイッレ: マリアンネ・コルネッティ
  ザッカーリア: コンスタンティン・ゴルニー
  イズマエーレ: 樋口達哉
  フェネーナ: 谷口睦美
  アンナ : 安藤赴美子
  アブダッロ: 内山信吾
  ベルの祭司長: 妻屋秀和
  指揮: パオロ・カリニャーニ
  演出: グラハム・ヴィック
  合唱: 新国立劇場合唱団
  合唱指揮: 三澤洋史
  管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団

今日は公演3日目だが、すでにブログ等で演出に関して賛否両論、基本的に演出については保守的な私であるから、今回の現代風読み換えについては拒否反応が出るのでは、と懸念していたが、実際に目にしたのは極めて美しく刺激的な舞台でした。
開演30分前に劇場の扉が開くと、舞台はエホバの神殿ならぬショッピングセンターの、高級ブティックやカフェの並ぶ一際オシャレな一角。ブランド品を身につけた男女、あるいは携帯を耳にしている待ち合わせと思しきスーツの男性、沢山の人々が一階とニ階を行ったり来たりしている。ちょっと残念なのは、舞台右手のエスカレーターが動いてなくて、(あー予算がないのね)と思わせてしまうところ。普通に階段で良かったのに。一階左手のiPadなどをディスプレーしているショップは齧られたアップルならぬヒョウタン洋梨のロゴが輝いていて御愛敬。序曲が始まると、それまで普通に話したり歩いたりしていた彼らが、ブランドの小物やバッグなどを床において、それを拝んだり手にして身悶えしたり。これを物欲にまみれた現代社会への批判云々と絵解きしてしまうと身も蓋もないのだが、直前までの日常の光景との落差というか、強烈な異化効果に唖然としてしまう。
ユダヤ教祭司のザッカーリアは薄汚れたよれよれのシャツとジーンズのラフな格好で、LA FINE È VICINA(世界の終末は近い)と書かれたプラカードを背負って群衆を扇動する。そこに登場するアビガイッレとバビロニア兵達はテロリスト集団のいでたち。テロリスト達は豚や犬の仮面を付け、思い思いのラフな格好をしている。バビロニアの王ナブッコは彼らテロ集団のリーダーという訳だが、ナブッコが命じるとテロリスト達がブティックを滅茶苦茶に破壊し、壁やガラスに赤いスプレーを吹き付ける・・・と、まぁ終始こんな感じで芝居が進む。
今回何より私が気に入ったのは、破壊された後の舞台も、凄愴たる美しさを保っていて、美術スタッフ達の緻密な計算が偲ばれるところ。興味のある方は新国立劇場のHPに舞台写真がアップされているので是非ご覧頂きたい。
正直なところ、私はこの演出のあれこれの意味というか、何を象徴しているのか云々といったことには興味がない。むしろ「深読み」をしないで、ただただ眼前に繰り広げられる、今まで見たこともない光景を目を見開いて見ているだけでよいのではないかと思います。反対に、これは何、あれは何と絵解きしてしまうと少し鼻白む思いをするのではないか。従って、演出家があれこれと言葉で講釈を垂れて、それをチラシにして劇場のホワイエに置いてあるのは如何なものか、という気がしました。余計なことを言わずに、ひたすら視覚の悦びに身を任せていればよいのに、と思います。

演出について長々と書きましたが、歌手とオーケストラの充実ぶりは新国立劇場のこれまでの演目の中でもずば抜けたものの一つではなかったかと思います。まずアビガイッレを歌ったマリアンネ・コルネッティ。ついこの間「アイーダ」で素晴らしいアムネリスを聴かせてくれたばかりだが、今回も凄まじいものでした。私は1988年のスカラ座来日公演の時の「ナブッコ」で、ゲーナ・ディミトローヴァの大迫力のアビガイッレを聴いているのだが、その時に勝るとも劣らない出来だったように思います。しかもコルネッティは、ただ声量に任せて吼えまくるのではなく、初期ヴェルディ作品の様式をしっかり押さえた、極めて音楽的な歌唱でした。第2部のカバレッタで少し息があがったようでしたが些細な瑕でしょう。至難なアジリタをものともしないドラマティコ、というヴェルディの苛酷な要求に見事に応える様子は、まるでクランクだらけの狭い道をダンプカーでぶっ飛ばすくらい歌手にとっては困難、聴き手にとっては快感です。
ナブッコ役のルチオ・ガッロも素晴らしい。いつの間にか当代最高のヴェルディ・バリトンとして、かつてのピエロ・カプッチッリばりの地位を築いていたわけですね。尤も、ナブッコはシモン・ボッカネグラやイヤーゴ、マクベスなどと比べると、やや奥行きや陰影に乏しい役柄という感じもして、これだけで歌手の力量を云々するのは気が引けるのだが、それにしてもこれだけの立派なナブッコを聴かせてもらえば大満足。
ザッカーリア役のコンスタンティン・ゴルニーも、先の二人に比べると少し見劣りするがこれはこれで立派なもの。意外に出番の多い役ですが安心して聴けました。
今回特筆すべきは日本勢の脇役が非常に充実していて、主役に引けを取らなかったこと。イズマエーレの樋口達哉は、出だしから火を吐くような熱い歌で、これぞヴェルディと快哉を送りたいと思いました。出番が少なくて歌手には実に気の毒な役だが、音楽的には大変重要な役どころで、シノーポリの録音では確かドミンゴに歌わせていて、なんともったいない、と思ったことがあります。フェネーナの谷口睦美も健闘。フェネーナは第4部フィナーレに短いが魅力的な聴かせどころがあり、歌手にとってもやりがいのある役だろう。私のお気に入りの妻屋秀和はバビロニア側の祭司長役で、ほんの少ししか出番がない。この人、凄い歌手なのにルックスで損しているのかなと(失礼)思ってましたが、今回はドレッドヘヤーにズタボロのジーンズ、B系っぽいブルゾンで若づくりしてみたら意外と(重ねて失礼)イケてました(笑)。これなら思い切ってザッカーリア役を歌わせてあげても良かったのに、と思いました。
このオペラの真の主役というべき合唱については今回も文句の附けようがありません。第3部の「行け、わが想いよ、黄金の翼に乗って」では盛大な拍手が起こりましたが、私は第4部のナブッコの「シェーナとアリア」のカバレッタの合唱が好き。この白熱のストレッタを聴くと体温が2℃くらい上昇する感じ。もう新国立劇場合唱団は世界でも最高峰の合唱団ではないかな。
最後に管弦楽について。初期ヴェルディの魅力はなんといってもその直線的な、怒りも悲しみもストレートにぶつかって来る力強い旋律、骨太のカヴァティーナと血沸き肉躍るストレッタなのだが、パオロ・カリニャーニの指揮は、このヴェルディの魅力をこの上なく引き出していたと思います。東京フィルハーモニー交響楽団も、恐らく指揮者に乗せられて、お行儀の良さなどかなぐり捨てた素晴らしい演奏でした。この時期のヴェルディのスコアは微温的な演奏では悲しくなるほど薄っぺらいスカスカの音がするものだが(それは多分にヴェルディのオーケストレーションが中期以降の作品に比べて稚拙であるということなのだろうが)、本当に良い演奏というのはこの稚拙ささえまばゆいばかりの輝きに変えてしまうものです。それこそ先に述べた1988年のナブッコを指揮したムーティがそうであったし、録音で聴いた「エルナーニ」もそうでしたが、これほどの演奏というのはとても稀なものだと思います。今日のカリニャーニと東フィルはそれらの名演に迫る、いや、歌手と合唱のレベルを総合的に考えればそれを凌ぐほどの出来栄えだったように思います。
日本のオーケストラは、この「スカスカのスコアを輝かしく演奏する」というのが極めて苦手であると感じてきましたが、実は指揮者次第で「やれば出来る子」だったのですね。ただ、これだけの演奏を成し遂げてしまえば、後々イタリアもののハードルがものすごく上がってしまって大変でしょうね。
(この項終わり)
by nekomatalistener | 2013-05-25 22:35 | 演奏会レビュー | Comments(9)
Commented by schumania at 2013-05-26 07:30 x
あ〜、観に(聴きに)いきたい!

もともといきたいと思っていましたが、レビューを拝見して益々いきたくなりました!
Commented by nekomatalistener at 2013-05-26 14:12
まだ3公演残ってますよ(悪魔の囁き)。もっとも、いろんなブログを検索すると演出についてボロクソに書いてあるものや、歌手に対しても批判的(コルネッティが太り過ぎ、とかいうのは論外にしても)なものも多く、それらを読んだら諦めやすい、かと(笑)。
Commented by schumania at 2013-05-26 20:13 x
悪魔の囁きには負けません??
今回は、仕事を辞めてもいいくらいの覚悟がないと日程的に行けません。

ところで、2003〜2004シーズンの新国、出張に絡められるのはボツェックだけ(正直言ってボツェックは観たくない)。猫又さん的に、これは無理しても行っとけ、みたいなお薦めの公演を御教示いただけると幸いです。
Commented by nekomatalistener at 2013-05-26 22:04
ヴォツェックお薦めなんだけど・・・。schumaniaさんのお気に召しそうなものは一年先ですが来年5月のアラベラ。以前私が観たのと同じプロダクションです。音楽もお話もロマンティックで泣けます。ある意味、松竹新喜劇みたいなノリ。コルンゴルトの「死の都」、カヴァレリアとパリアッチの二本立て等もそそられますが新しいプロダクションでどんな演出か判りませんのでお薦めというのとはちょっと違います。
Commented by schumania at 2013-05-26 22:42 x
ありがとうございます。
アラベラもカヴァパリも非常に都合がつきにくい日程で厳しいところです。コルンゴルドは何とかなるかもしれません。
あと、カルメンとバタフライも何とかなるんですが(しかも土日の1泊2日で両方観れる)、これらはお薦めに挙がりませんか。。
Commented by nekomatalistener at 2013-05-26 23:37
お薦めじゃないってことじゃなくて、こういった演目は歌手次第という気がしますが、両方ともどんな歌い手か知りませんので・・・。バタフライは前回のオルガ・グリャコヴァが凄かったので何かと比較してしまいそうです。
Commented by schumania at 2013-05-27 12:32 x
何度も御丁寧にありがとうございました。コルンゴルトは滅多に無い機会ですから観に行ってみたいですね

また、キャンプ場のコジのレポも楽しみにしています。
Commented by schumania at 2013-06-14 12:17 x
死の都、3月8日にびわ湖でもやるようで、飯田みち代さんが出られるそうです。日本で、同じ月に、別プロダクションでコルンゴルトのオペラが上演されるなんてどうなっているんでしょう? 残念ながら、私はその日は仕事の為に行けませんが。
Commented by nekomatalistener at 2013-06-14 19:25
昨年は「スペインの時」が新国立と二期会でかぶってましたし、今年は「ホフマン物語」がそうですね。偶々なのかも知れませんが、珍しい演目が重なるのはいい面もあるでしょうが客を奪い合うことにもなるのではと心配します。それにしてもコルンゴルト、最近人気あるようですね。個人的にはちょっと甘口すぎかなぁと思いますが。びわ湖のプロダクション行くぐらいなら二期会のライマン「リア王」のほうがはるかに楽しみ、というのが私の本音。あ、でも飯田さんには興味あります。
<< 新国立劇場公演 モーツァルト ... ブリテン 「ビリー・バッド」に... >>