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プッチーニ 「西部の娘」 マゼール/ミラノ・スカラ座管弦楽団(その4)

「なぞなぞ。朝は4本、昼は2本、夜は3本のもの、なーんだ?」
「俺が飲むヤクルトの本数。」




第2幕の続き。激昂するミニーに、ジョンソンは自分の呪わしい半生を語り、ミニーに出会ってから愛と真面目な仕事との生活を夢見るようになったと歌います。しかしミニーはジョンソンが盗賊であったことは許せても、情婦がいながら自分を騙し、初めてのキスを奪ったことは許せないと言います。ジョンソンの語りはかろうじてアリアと呼べるものの一つですが、ここに現れる5/2拍子の小節は前々回私が「歌が上り詰めていくその更に向こうに、真の感情の爆発が控えている際、そこに到達するのももどかしく階段を一段おきに駆けのぼるように切迫して現れる」と表現した「字足らず」の小節です。この一小節があるために聴く者は瞬時にして音楽の最大限の昂り、感情の爆発に引きさらわれてしまうのだろうと思います。プッチーニの音楽を「お涙頂戴」式と呼ぶことは強ち間違ってはいないと思うけれども、この天才とメチエの類まれな結合を見落としてはならないと思います。
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結局ジョンソンは吹雪の中山小屋を去り、ミニーは自分を納得させるように「終わった」と呟きます。そこに銃声が聞こえ、ドアに何かが倒れ掛る音が聞こえます。ミニーは扉を開け、銃で撃たれたジョンソンを小屋に引き入れようとします。尚も戸外に出て行こうとするジョンソンにミニーは思わずIo t'amo!(愛してるわ!)と叫び、血を流す彼に何とか梯子を登らせて屋根裏部屋に匿います。烈しく扉を叩きながらランスが小屋に入ってきます。「俺はランスじゃない、保安官だ!」。ランスはジョンソンが傷を負って逃げ込んだことを確信していますが、ミニーに罵倒され、彼女を押さえつけて無理やりキスしようとします。ミニーはランスに出ていけと言いますが、その時天井から血が滴り落ちてきます。ランスが高圧的にジョンソンに降りてくるよう命じると、息も絶え絶えのジョンソンが降りてきて、気を失ってしまいます。
追い詰められたミニーはランスに向かって「あんたはギャンブラー、ジョンソンは盗人、そしてあたしは鉄火場の女、みんな同じ穴のむじなよ。あたしとジョンソンの命を賭け金にしてポーカーをしましょう、あんたが勝てばこの男を好きにしたらいい、でもあたしが勝ったらこの男はあたしの物」と賭けを持ちかけ、ランスとの息詰まるポーカーが始まります。一瞬の隙にカードをストッキングに隠した彼女は、途中緊張のあまり気分が悪くなった振りをしてランスに水の入ったグラスを取りに行かせ、手持ちのカードとすり替えます。3枚のキングを手に勝ち誇るランスにミニーは3枚のエースのフルハウスで勝利を告げ、ランスは振り絞るようにBuona notteとだけ言って憤然と出て行きます。変ホ短調の叩きつけるようなオーケストラに乗せて、ミニーは「ジョンソンはあたしのもの」と叫んで幕。
銃声が聞こえてから幕が降りるまでの音楽は、一々譜例は挙げませんがこの上なく劇的で息詰まる思いがします。でもポーカーの場面は舞台よりも映像向きでしょうね。

第3幕は森の場面。焚き火の回りでランスは切り株に座って思案しており、ニックは行ったり来たりしています。ミニーに同情するニックの歌は、全音音階によって調性が宙吊りにされ、不安な心を表します。ランスはジョンソンへの憎しみを歌いますが、ニックはミニーの恋を成就させてやりたいと思っています。
ジョンソンを捕まえた男達が興奮して現れ、口々に「吊るしてしまえ」と叫びます。ニックは首吊り用の縄を準備しているビリーに、自分が戻るまで決して殺すな、と言い置いて姿を消します。ランスの歌う「今度泣くのはお前の番だ、ミニー」はアリアと呼べる代物ではないが素晴らしい部分。ここにも感情の爆発がうねるような6/4拍子の中に「字余り」の9/4拍子を招きよせ、いやが上にも興奮を誘います。こんな旋律があるから私はどうしてもこの敵役のランスを憎むことが出来ない。もしかするとこの「悪人の魅力」は「トスカ」のスカルピアを凌ぐかも知れない。
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ジョンソンは最後に一言言わせてくれと叫びます。男達は尚も殺せと騒ぎますが、兄貴格のソノーラが「聞け」というとようやく静まります。ここからジョンソンのもう一つのかろうじてアリアと呼びうる絶唱が始まります。ジョンソンは男達に、ミニーに自分が死んだと言わないでおいてほしい、自分は男達に許されて追放となり、彼女の教えてくれたより良い生活を送っていると伝えてほしいと力の限り歌います。
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何ということもない、一見霊感に乏しいとすら思える旋律ですが、これが次第に高揚すると感動せざるを得ない。ここにも4/4拍子の中に「字余り」の2/4拍子が2回差し挿まれています。この小節があるせいでどれだけ聴く者が涙を絞られることか。
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死の儀式が始まります。嬰ハ短調と二短調の交替はどこかアルカイックな響きを醸し出します。そこにニックに導かれてミニーが馬に跨って登場、男達は殺せ、いやもう放してやれ、と大混乱。ミニーは皆にピストルを向け、行かせてくれなければジョンソンを殺して自分も死ぬと叫びます。あの強盗ラミレスは私の部屋で死に、生まれ変わったのだからあんた達には殺せない、どうか許してやって、と。ソノーラは「行かせてやれ」と言い、「金の事はどうでもいいが、奴は俺達からミニーを奪った」とすすり泣きます。ミニーは男達一人一人に優しく語り掛け、ミニーのこれまでの献身を思って男達は二人を許します。あの二重唱の旋律や、ジェイクの望郷の歌の旋律などが懐かしく回想されます。男達の別離の歌が静かに流れる中、二人はカリフォルニアに別れを告げて立ち去り幕が降ります。
もう少し書きたいことがあるので続きはまた今度。
(この項続く)
by nekomatalistener | 2012-04-16 23:51 | CD・DVD試聴記 | Comments(0)
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