普段は会釈程度の顔見知りの人が、猫を飼っていることが判って急にお近づきに。
私「どんな猫飼ってはるんですか?」 彼「シベリアンハスキーです」 私「・・・・・・ロシアンブルーですね?」 彼「あ、はいっ!」 たまたま私の飼ってるのもロシアンなのですぐに判ったけど(笑)。ちなみにこのブログの右上の写真の子です。 CD10枚目はそれぞれ異なる作風の協奏曲仕立ての作品集。 ピアノと管楽器のための協奏曲(1923~24/1924初演/1950改訂) [1964.5.13録音] フィリップ・アントルモン(Pf) コロンビア交響楽団 ムーヴメンツ(1958~59/1960初演) [1961.2.12録音] チャールズ・ローゼン(Pf) コロンビア交響楽団 ピアノと管弦楽のためのカプリッチョ(1928~29/1929初演/1949改訂) [1966.1.3録音] フィリップ・アントルモン(Pf) ロバート・クラフト指揮コロンビア交響楽団 ヴァイオリン協奏曲ニ長調(1931/1931放送初演) [1960.6.29-30録音] アイザック・スターン(vn) コロンビア交響楽団 「ピアノと管楽器のための協奏曲」は私の大好きな作品ですが、今までちょっとした勘違いをしておりました。てっきりこの作品、バルトークのピアノ協奏曲第2番へのオマージュだろうと思っていたら、ストラヴィンスキーが1923~1924年の作曲、バルトークは1930~1931年の作曲。そうなるとバルトークの2番こそストラヴィンスキーへのオマージュに聞こえてきます。これは決して私の思い込みではないと信じたい。バルトークがドビュッシーと並んで、如何にストラヴィンスキーの音楽を敬愛に満ちて受容していたかは、「中国の不思議な役人」と「火の鳥」あるいは「夜うぐいす」との類似、あるいは「弦楽四重奏曲第3番」と「兵士の物語」の中の「パストラル」の類似など、具体的に例示することが出来ます。いずれにしてもバルトークがそのアイデアを流用した管楽器だけのオーケストラと、打楽器的ともいえる独特のピアニズムは、ピアノ協奏曲の歴史に本当に新しいものをもたらしたと言ってよいと思います。それなのに何という人気の無さ!せめてバルトークの半分なりと演奏機会があれば、と思わざるを得ません。冒頭の、ただならぬ悲劇性を感じさせる管楽器の葬送行進曲めいた部分、頻出する短2度のぶつかり合いがなんとも美しく胸を締め付けられます。ピアノが登場すると一転してマッシヴな和音による激しい楽想が続きます。それまでのロマン派的なピアニズムとは完全に隔絶しており、これと比べればプロコフィエフの協奏曲など何とも保守的に思えるほど。分厚い和音の連打で始まる第2楽章もちょっと比較するものが思いつかない。アントルモンの独奏は非常に立派で、曲を知るという意味では充分ですが、欲を言えばもう少し技巧的な余裕があれば、というところ。彼のもつ技巧ではもう一杯一杯という感じがしなくもない。もし1970年代のポリーニぐらいの腕のあるピアニストが目の前で弾いてくれたら多分私、失神どころか失禁してしまうと思います(笑)。 ピアノとオーケストラのための「ムーヴメンツ」はストラヴィンスキーの十二音技法による作品の中でも最も急進的な部類です。1953年から書き始めた「アゴン」がウェーベルンのお手本をなぞるように書かれているとすれば、こちらは早くもトータル・セリエリズム風の書式が随所に見られます(特に両端楽章)。70歳を超えて世間より遅く十二音技法を取り入れたストラヴィンスキーですが、あっという間に時代に追いついてしまった感じがします。この両端楽章は、明らかにストラヴィンスキーが1952年のブーレーズの「2台のピアノのためのストルクチュール」、あるいは同じく1952年のシュトックハウゼンの初期のピアノ曲あたりを知っていた証であると思います。この頃のブーレーズやシュトックハウゼンの作品に共通するのは、コンセプトが如何に新しいものであろうと、超絶技巧に対する顕著な偏愛であろうと思います(その後シュトックハウゼンはこの路線を捨ててしまいますが)。「ムーヴメンツ」に見られる、夜空に煌めくような装飾音に満ちたピアノ・パートにもこれら先行作品を聴いた際に得られるのと同種の感覚を覚えます。然しながらこの後ストラヴィンスキーはこの路線(トータル・セリエリズム)を追求せず、エルンスト・クルシェネックやミルトン・バビットらの影響を受けながら、最晩年に掛けて独自の作風を確立していきます。その意味ではこの「ムーヴメンツ」はストラヴィンスキーの作品の中でもあまり類例のない作品です。ピアノを弾いているチャールズ・ローゼンはブーレーズのウェーベルン全集の旧盤のピアノ作品を弾いていた現代音楽のスペシャリスト。ちなみにブックレットには次のカプリッチョがロバート・クラフト指揮と書かれていますが、この「ムーヴメンツ」の指揮のほうじゃないのかな、根拠はないけれど。 その「カプリッチョ」ですが、ここに見られるピアノの書法はこのCDの中では最も伝統的。サンサーンスのピアノ協奏曲のソロを「ピアニスティック」と呼ぶとすればこちらもピアニスティックと言えるかも知れませんが、目新しさはあまり感じられません。これならアンドレ・プレヴィンとプロコフィエフの協奏曲を録音した頃のアシュケナージでも弾けそう(笑)。目まぐるしく変化する楽想はまさにカプリッチョというところですが、音楽としての斬新さはあまり感じられません。しばしば見受けられる「手癖で書いた音楽」の一つのような気がします。 「ヴァイオリン協奏曲」はトッカータ、アリアⅠ、アリアⅡ、カプリッチョの4楽章構成。この構成を見ても判る通り、古典的な協奏曲とは違う、ディヴェルティメント風のめっぽう楽しい作品。但し、ただ楽しいだけではなくて前回の投稿でもちょっと書いた通り、第2楽章は全体がシェーンベルクの弦楽四重奏曲第1番の悪意に満ちたパロディになっていますが、私の知る限りwikipediaなどのネット情報では誰も言及していないので若干不安になります。シェーンベルクの冒頭の譜例を掲げておきますので、ご確認いただければと思います。 ついでに言えば、第3楽章の冒頭のヴァイオリンの和音は「トリスタンとイゾルデ」第2幕冒頭の引用かと思われますし、終楽章はバッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番を連想させます。以前このシリーズの「カルタ遊び」でも書きましたが、おそらくこの手の作品には古今の様々な作品のオマージュやらパロディが隠されているような気がしてなりませんが、私の知識が乏しいせいで、具体的にこれ、と指し示すことが出来ないのがとてももどかしい思いがします。アイザック・スターンのソロはなかなか名演だと思いますね。曲想からすればひたすら楽しいレヴァイン&パールマンの演奏もなかなか良かったと記憶していますが、このスターンの演奏はこの作品の意外に複雑な性格をよく表現し得ていると思いました。 (この項続く)
by nekomatalistener
| 2012-01-10 22:38
| CD・DVD試聴記
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