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ストラヴィンスキー自作自演集WORKS OF STRAVINSKY (その5)

昼飯時に同僚に「ちょっと前に、シルク・ド・ソレイユみたいなやつで何とかいうのあったよね~」と言いながら
「何とか」が出てこない。同僚も一応、「シルク・・・みたいなヤツですか・・・・」と考えるフリ。飯終了後、ようやく「サルティンバンコ」という言葉を思い出して、「あーあれ、サルティンバンコや」と言ったら、「え?それ、シルク・ド・ソレイユの出しもんの名前やないですか」だと。いやだからさぁ・・・。もうキーッてなるね。



CD5枚目もバレエのための作品。

 バレエの情景(1944/1944初演) [1963.3.28録音]
   CBC交響楽団
 チャイコフスキー「眠りの森の美女」より「青い鳥のパ・ド・ドゥ」の編曲(1941) [1964.12.17録音]
   コロンビア交響楽団
 バレエ「妖精の口づけ」(1928/1928初演/1950改訂)〔チャイコフスキーによる〕 [1965.8.19-20録音]
   コロンビア交響楽団

ストラヴィンスキーの諸作品の中で、どちらかといえば苦手なもの、あまりピンと来ないものは私の場合、このディスクに納められたチャイコフスキー関連ですね。私は基本的に、チャイコフスキーの音楽に対して、「エフゲニー・オネーギン」だけは別として、今まで殆どシンパシーというものを感じたことがないので、これらのストラヴィンスキーの作品も「苦手」意識があります。
「妖精の口づけ」は、音楽的素材がチャイコフスキーのものである、という点を除くと、ペルゴレージの素材を元に「プルチネッラ」を書いたのとほぼ同様の手法で書かれています。ただ、「プルチネッラ」の場合、イタリアンバロックの様式の中に、最初の内は、ほんの少し墨を垂らしたようにストラヴィンスキーらしいいたずら(この時代の和声進行ではありえない音がちょこっと入っていたり、経過句のオスティナートが長すぎたり・・・)が含まれていて、次第にその墨が広がっていくように異化効果が目立ってくる、もう最後はどっから見ても墨だらけ、という過程そのものが聴き手の知的興奮を誘う仕組みになっていますが、「妖精の口づけ」では、素材(チャイコフスキー)と墨(ストラヴィンスキー)の落差が、ペルゴレージに比べると小さい為に、ぼんやり聴いているとストラヴィンスキーを聴いているのかチャイコフスキーを聴いているのか、判然としなくなってしまいます。よくよく聴くと、いろんなことをやらかしているようではありますが。それにしても、この結構長い作品(自作自演で46分ほど)から読み取るべきは、ストラヴィンスキーのチャイコフスキーに対するリスペクトと、バレエという芸術様式への絶大な信頼でしょう。私はチャイコフスキーとバレエ、そのどちらにも疎いので、ストラヴィンスキーのこの方面に対する理解のためにはもっと勉強する必要があると痛感しています。まずは手始めに、せめて「白鳥の湖」くらいはきちんと聴いておかないと、と痛感した次第。

「青い鳥のパ・ド・ドゥ」、作曲の経緯に関する外部情報を全く持ち合わせていないので、習作として自発的に書いたのか注文仕事か判りませんが、まぁ、どっかのバレエ団のコンペ用の劇伴あるいはアンコール・ピースとして委嘱されたと考えるのが妥当でしょう。元ネタの「眠りの森の美女」そのものを聴いてないので話になりませんが、聴いた感じでは何の変哲もないチャイコフスキーの音楽。オーケストレーションにピアノが入っているのがやや異質ですが、これも効果を狙って入れたというよりは、委嘱元のオーケストラ編成に併せた、といった機会的理由によるもののように聞こえます。しかしながら、ストラヴィンスキーが自作の集大成を録音するにあたって、わざわざこの作品を取り上げたということ自体が、彼のチャイコフスキーに対する偏愛を物語っているのでしょう。作品目録を見ると、20作を超える編曲作品がリストアップされていますが、この自作自演集にはこの「パ・ド・ドゥ」とジェズアルドの編曲だけが取り上げられている、というのも非常に興味深いことだと思います。編曲といえば、1913年にラヴェルと共作で、ムソルグスキーの未完のオペラ「ホヴァンシチナ」のオーケストレーションをしたり、1918年には「ボリス・ゴドゥノフ」のピアノ編曲をしたりしていますね。ムソルグスキーのオペラは私も大好きなので、ストラヴィンスキーもムソルグスキーの音楽を愛していたと思われるのはうれしい話です(たとえそれが金儲けの為の仕事であったとしても)。ちなみに「ホヴァンシチナ」のオーケストレーションですが、クラウディオ・アバドのCDでは基本的にショスタコーヴィチの補筆版を採用しながら、第5幕の最後のみラヴェル=ストラヴィンスキー版を用いており、実際に耳で聴くことが出来ます。同じくショスタコーヴィチ補筆版を採用しているゲルギエフ盤(幾つかの箇所はゲルギエフ自身が補筆しているらしい)と比較すると、より現代的な透徹した響きがしますが、ムソルグスキーに対する私自身の偏愛についてはまた機会を改めることにしましょう。

「バレエの情景」はこのCDの中では最もストラヴィンスキーらしい作品です。ここでは、ストラヴィンスキーが考える「バレエ的なるもの」、長いバレエ音楽の創作の中で得られた手法を抽出したもの、バレエそのものの抽象化が見られます。換言すれば、バレエそのものに関するバレエ、いわばメタ・バレエとでもいうべきコンセプトで書かれているということです。この作品の短さが、この抽象化という見方を正当化してくれているような気がします。メタ・バレエというコンセプトは当然に音楽的側面にも反映されており、音楽的には一見、ストラヴィンスキーが考えていた「バレエ音楽なるもの」をさまざまな要素に分解し、それをつぎつぎと並置しただけのようにも思われますが、ディアトニックな書法にも拘わらず抽象化の度合いは深く、中期の作品としてはより後期の「アゴン」以降の作風に近づいていると見るべきでしょう。それはともかく、聴いて楽しく、豊かで洗練されたストラヴィンスキーらしい佳品です。
(この項続く)
by nekomatalistener | 2011-11-23 20:02 | CD・DVD試聴記
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