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ストラヴィンスキー 「兵士の物語」 作曲者指揮コロンビア室内アンサンブル(その2)

ちょっと前の話。会社で言葉を知らんいかにも今時の若手社員(神戸大卒)に彼の上司が「・・・くん、『馬脚を現す』ってどういう意味か知ってる?」と尋ねた。すると彼、「えっ・・・・脚力が強いってことですか?」とのたまった。面白いので周りのみんなで「ねぇねぇ『重箱の隅をつつく』って知ってる?」とかキャッキャ言いながら尋ねると目を白黒させながら「えっ・・・・それ、重箱の隅をつつくってことじゃないんですか?」。もう期待通り。




お断りするまでもありませんが、ストラヴィンスキーは死後50年経過してませんので楽譜のコピーを載せるのは御法度です。が、言葉だけというのも少々無理がありますので、MUSESCOREのソフトを使って必要最小限の譜例を再構成したものを幾つか掲げておきます。
因みに私はコルネットやクラリネットなどの移調楽器の譜面がどうしても読めないので、この再構成は移調表記を実音表記に直す為にも私には必要不可欠の作業でした。

とりあえず、冒頭の兵士の行進曲、これを分析してみます。まず最初の3小節から練習番号1の部分、A管のコルネット(上段)とトロンボーン(下段)のパートを実音表記で抜き出しました。CHESTER MUSIC社のスコアの扉に自筆譜の写真が載っていますが、ストラヴィンスキーは練習番号を自ら記入しています。
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全体に無調という感じはなくて全曲がディアトニックな書かれ方をしています。最初の4小節のコルネットは、こういう言い方が正しいかよく判りませんが、へ長調で始まって途中で間違ってホ長調になってしまったような感じを受けます。試しに最後の3つの音を半音ずつ上げると、へ長調の明快な、というより凡庸な旋律となります。対置されるトロンボーンは、なんとなく調性感をぼかす為に後付けされた感じがしますが、伴奏を受け持つコントラバスのG-Dの刻みの繰り返しに引きずられて、ト長調に終止したように聞こえます。次の3小節のコルネットは明確にイ長調、トロンボーンは二長調、コントラバスは練習番号13までずっとG-Dの刻みでト調の土台を提供し続けます。
図式化すると調性感がぼかされた前半(無調ではないので、仮に擬調pseudo-tonalと呼んでおきます)と、比較的明確な多調(polytonal)の後半という構造になっています。後半は一種の教会旋法、ミクソリディア旋法とみることも可能ですが、コントラバスがト調の刻みを続けていますので、やはりこれは多調様式と見た方が自然です。コルネットとトロンボーンは完全にリズムが一致していますので、この二つの楽器の音程を調べてみました。まずは最初の4小節。
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トロンボーンとコルネットの音の間隔を半音数で表記します。間隔が13以上の場合は12の倍数を引いて補正しています。全部で10個の音の組合せの内、長7度が3回、長2度が1回出てきて、不協和感、擬調感の要因となっています。
次の3小節はこんな感じです。
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最初の5組は協和音、次の短7度も比較的不協和感のない音程ですので、前半に比べて調性感が随分とはっきりしていますが、最後の長7度が、イ長調でもニ長調でもなくpolytonalな音楽として聴かれるべきことを主張しています。
次の練習番号2番もイ長調のコルネットとニ長調のトロンボーンのpolytonalな(あるいはaのミクソリディアによる)書法ですので協音程が連続しますが、二つの楽器の上がり下がりが異なっているので短3度、完全5度、短7度がバランス良く現れます。ここはディアトニックな「音なり」に書かれているので、自然と長3度や長7度が現れます。
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ファゴットのタカタッタカタッタカタッタカ(これをfigure1と呼んでおきます)から練習番号3になり、コルネットのイ長調のアルペジオで、ちょっと名人芸を披露します(これも仮にfigure2としておきます)。次の4小節はまた調性がぼかされています。これも冒頭の4小節と類似の構造、コルネットの重嬰記号をシャープに置き換えるといかにも凡庸な旋律になりますが、これを思いっきり捻った感じ。トロンボーンのパートが、ディアトニックな響きから遠のくように後付けされた感じがするのも同様で、凡庸な短3度のあとに短2度と完全4度の連続という不自然な、もしくは極めて作為的な和声進行によって、聴き手の調性感は宙づりにされてしまいます。
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この後しばらく、今まで現れた素材、というか断片の様々な組み合わせで続いていきます。退屈で仕方ないという方もおられるかも知れませんが、もう少しだけお付き合いください。
(この項続く)
by nekomatalistener | 2011-10-27 22:59 | CD・DVD試聴記
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