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吉浪壽晃 能の会 「望月」

若き日のフィッシャーディースカウの歌う「魔王」。
https://www.youtube.com/watch?v=5XP5RP6OEJI
なんど観ても素晴らしい歌唱なんだけど、なんとなくタカアンドトシのタカ(ライオンのワッペンのほう)が中に入ってるような気がして、イマイチ感動しないの。




公私ともに何となく余裕のない生活を送っており、ブログの更新も滞りがち。このひと月ほど、CDもあまり聴いていません。Youtubeであれこれつまみ食いはしてるけれども、私の場合、やはり真剣に聴くのは身銭を切って買った音源。もう少しすれば生活が落ち着くと思うのですが。
そんな訳で、観能後一週間以上ほったらかしになっていましたが、せっかくマメに附けてきた観能記録、気を取り直して書き記しておきます。

 2015年6月21日@京都観世会館
 吉浪壽晃 能の会

 舞囃子
  花筐  井上裕久

 仕舞
  放下僧小歌  井上裕之真
  富士太鼓 勝部延和
  歌占キリ  吉井基晴

 望月
  シテ(小澤刑部友房)  吉浪壽晃
  ワキ(望月秋長)  福王和幸
  ツレ(安田友治の妻)  深野貴彦
  子方(花若)  吉浪和紗
  間(従者)  松本薫


今回はじめて拝見した「吉浪壽晃 能の会」、能は「望月」のみ、あとは舞囃子と仕舞で狂言もなし、ちょっとコスパが悪い感じ。
舞囃子については、以前「頼政」のそれを観て、「きっと謡や踊りの稽古をされている方や、玄人筋の、見巧者の方であればとても面白いのだろう。しかし(中略)悲しいかな素人である私にはなかなかハードルが高いといわざるを得ません。」云々と書いたのと同様の感想を持ちました。「花筐」といえば継体天皇をめぐる王朝絵巻といった物語ですが、紋付き袴ではなかなかその華やかさがイメージできないのですね。仕舞も同様ですが、とりあえず訳が分からなくとも見て目を肥やせばいいか、と思いながら何ヶ月か経ちましたが、そろそろ舞の型のことなど少し勉強したほうが良いのかも知れません。

後半は「望月」。
近江国守山で宿屋を営む亭主のもとに幼子をつれた旅の女が一夜の宿を借りにやってくる。実は亭主は小澤刑部友房、母子は友房の元主君で望月秋長に殺された安田の荘司友治の妻と遺児花若であった。三人涙ながらに再会を喜び合っていた折も折、偶然にも望月と従者が信濃国に下向する途中宿にやってくる。亭主や母子の素性に気付かない望月のもとに、盲御前(=瞽女)を装った母子が近づき、謡や舞を披露する。最後に亭主が余興に獅子舞を舞い、望月が気を許した隙をみて亭主と花若が刀を抜いて友治の仇を討つのであった。
こういった、亡霊や鬼神の類ではなくて生身の人間が主役の能を現在物というそうだ。めずらしくシテが面を着けず、台詞のほとんどが謡を伴わない素の台詞であることなど、興味深い諸点はいろいろとあるようですが、この能の魅力はなんといっても花若を演じる子方(子役)のかわいらしさと、子役ながら結構な長さの八撥舞を舞うひたむきさを愛でるところにあります。今回の子方はシテを務める吉浪壽晃氏の愛娘とのことですが、立派に大役を務めあげていたと思います。
また、この芝居でもっとも緊迫する一瞬、望月の眼前で気が昂った花若が思わず「いざ討とう」と叫び、望月と従者が反射的に刀に手を掛ける場面は、友房、望月、従者の連携のとれた所作と台詞が素晴らしく、結末は分かっていても思わず手に汗を握る緊迫感を味わいました。

子方詞「いざ討たう。
狂言「おう討たうとは。
シテ「暫く候。何事を御騒ぎ候ふぞ。
狂言「御用心の時分にて候ふに。是なる幼き者がいざ討たうと申し候ふ程に候ふよ。
シテ「子細を御存じ候はぬ程に尤にて候。此者の謡を申したる後にては。また幼き者八撥を打ち候。其八撥を打たうずると申す事にて候。
狂言「日本一の事頓て打たせうずるにて候。いかに申し上げ候。これなる幼き者が八撥を打つべきよしを申し候。
ワキ「急いで打たせ候へ。

物語もわかりやすく、見どころの多い能であると思いますが、素の台詞が多いので非常に演劇的、もっといえば近代的な感じがします。その反面、能のゆったりとしたテンポにはすこしそぐわないような感じも。例えば物着の間、アイの語りが短くて芝居の流れがどうしても停滞する。宿の座敷を渡り歩く見立てで、シテとツレが橋掛かりと舞台をしばしば往ったり来たりする間が、やけに長く感じられるのも同様。了見違いかも知れませんが、能としてのこなれ具合がちょっと足りないのかな、といった風に思いました。
しかしこんなことは、子役が一生懸命舞を舞うのを見ていると些末なことに思えてきます。お話のどうしようもないほどのご都合主義も同様。今回の舞台では最後にシテが獅子舞の途中で懐に隠し持った刀を落とすといった、小さな事故もあったが、それもこれも子方に免じてよしとしましょう。
(この項終り)
by nekomatalistener | 2015-06-30 01:01 | 観劇記録 | Comments(0)