私がまだ小学生の頃だと思うのだが、コロッケ屋さんを舞台にしたテレビドラマで、じゃがいもを皮ごと刻みながら「こうすると挽き肉みたいにみえるでしょ」とかなんとか、新入りの女性に教える場面があった。その時は「へーそうなんや」と思って観てたが、これ今なら食材偽装で炎上しそうだな。
今回は70年代の冒頭に書かれた大作「ニワムシクイ」を中心に聴いていきます。 CD1 ①8つの前奏曲(1928-1929) ②ニワムシクイ(1970) ロジェ・ムラロ(pf) ①2001.2.15②2001.2.22録音 50年代後半に書かれた「鳥のカタログ」の番外編、あるいは新「鳥のカタログ」の一篇として書かれ、結局単体で残った「ニワムシクイ」ですが、その規模の大きさ(このディスクの演奏は32分ほど)と絢爛たるピアノ技巧によって、メシアンの作品の中でも大変重要な作品であると思います。果てしなく鳴き続けるニワムシクイの歌を聴いていると、「鳥のカタログ」にこの鳥の名を冠した曲がないのが不思議に思えてきます。あるいはメシアンは、かつてこの鳥を取り上げるには自分自身の作曲のメチエ、あるいは妻イヴォンヌ・ロリオのピアノ技巧について何かしら満足できず、ようやく満を持して作品を世に問うたのが偶々この時期になったのかも知れません(あくまでも想像ですが)。いずれにしても素晴らしい作品で、もう少し時が経てばメシアンのピアノ曲の最高峰と言われるようになるのでは、と思います。 実はこの作品について書かれた素晴らしいブログがあり、私が附け加えることもあまりないかなと思います。 本当に作品への愛が溢れていますね。ですが、これを紹介するだけではやはり物足りないので、ここであまり触れられていないニワムシクイ以外の鳥たちの声を自分の勉強も兼ねて挙げておきましょう。「鳥のカタログ」同様、タイトル以外の鳥たちも沢山現われるので、その名称を知っておくことは無駄ではないはず。 まず現われるのはヨーロッパウズラ(仏Caille;羅Coturnix coturnix)とサヨナキドリ(Rossignol;Luscinia megarhynchos)。 ツバメ(Hirondelle de cheminée;Hirundo rustica)は鳴き声ではなくて飛翔する姿が描かれています。 最後にモリフクロウ(Chouette Hulotte;Strix aluco)。 メシアンがまだパリ国立高等音楽院の学生であった頃の「8つの前奏曲」は、最近のピアノ弾きには随分人気のある作品であるように見受けられます。確かに第1曲「鳩」や終曲「風のなかの反映」などはドビュッシーの「映像」や「前奏曲集」の延長線上にあるとても判りやすい音楽。もちろん、ドビュッシーを何とか乗り越えようとする試行錯誤の跡はいたるところにあって、単なる初期作にとどまらない面白さがあります。ですが、やはり後のメシアンの音楽と比べると習作の域を出ない、というのが冷静な評価だろうと思います。それにしても、この作品を聴くたびに、ドビュッシーの「12のエチュード」(1915)やスクリャービンの「3つのエチュードOp.65」(1912)が如何にとんでもない音楽であったかを逆に痛感します(特に後者は9度や7度のエチュードという斬新なもので、メシアンが知っていた可能性は高いと想像しています)。それと比べればメシアンの初期作は概してとても穏健な音楽というべきでしょう。 ムラロの演奏については、以前「鳥のカタログ」でウゴルスキーを引合いにしながら、精密だがモノクロームな感じだと書きましたが、今回も概ね同様の感想を持ちました。「ニワムシクイ」はライブ録音ですが、その精度はかなり驚異的。「8つの前奏曲」のほうは、綻びというほどではないものの、意外にもたついている箇所があって、まぁ基本的に指は回るはずの人ですから、向き不向き、あるいは作品の好き嫌いのレベルで少し差がついたのか、といった印象。この前奏曲については、昔のミシェル・べロフの録音が色彩的でとてもよかった記憶があります。 (この項続く)
by nekomatalistener
| 2017-05-10 23:37
| CD・DVD試聴記
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Comments(4)
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ぞんじん
at 2017-05-14 23:20
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今晩は。貴ブログはハイレベルすぎてなかなかついていけないのですが、今日あるコンサートでメシアンを聴きました。
「成就のアーメン」という2台ピアノのための作品だったのですが予備知識ゼロで聴いたところ、何やら赤・オレンジ・緑・青・黄色など原色系の光が指してきて、「私の恵みはあなたにとって十分である」というキリストのありがたいお言葉が届いたような・・素晴らしい音楽というか・・宗教体験と言うか・・。 メシアン・コンプリートエディション・・私の老後の楽しみにするかもしれません。
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nekomatalistener at 2017-05-15 17:30
ネイヴに行かれたのですね?私も行きたかったのですが多忙で叶いませんでした。ぞんじんさんは「共感覚」synesthesiaをお持ちなのでしょうか?私はメシアンシリーズの「その7」でも書いた通り、この、音を聴いて色が見えるという感覚はよく分からないのですが、もしそうであればメシアンの理解に大変有力な武器をお持ちだということになるかと思います。オフ会で詳細お聞かせください。
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ぞんじん
at 2017-06-11 22:14
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今晩は。貴ブログを拝見した影響なのか分かりませんが、今日もメシアンのピアノ曲に出会いました。
幼子イエスに注ぐ20のまなざし~聖母の初聖体拝領、という曲。演奏が素晴らしかった。およそピアノ曲という概念から遠い音。前回聴いたメシアンは、原色の光が降ってくるような感じでしたが、今回のは空気中の塵が見えるような音、そして時間の経過を感じさせるような音。 私はタイトルから、生まれたイエスをマリアが抱いているのかなと思いましたが、演奏後に奏者に聞いてみると、まだお腹の中にいる状態だそうです。素晴らしいピアノでした。
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nekomatalistener at 2017-06-13 18:22
> ぞんじんさん
「まなざし」の第11曲目ですね。私も大好きな曲です。これ単独でも良いのですが、全曲通しだと、全20曲の中でも最も技巧的で華々しい「喜びの精霊のまなざし」の直後に弾かれるので、一転して静かで神秘的な音楽が心に沁みます。「まなざし」全曲は2時間を超える大作ですが、メシアンの中では比較的CDも多く、youtubeに何種類も上がっていたりするので、是非他の曲も聴いてみてください。ちなみに私が一番好きなのは第5曲目「御子に注ぐ御子のまなざし」です。
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