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シューベルト 「美しき水車小屋の娘」D795

取引先の合田(ごうだ)さんという方からメールが来るたびに、頭の中で「太陽光だゴーダ♪」というCMがエンドレスで鳴りだして困っています。それに、業務で団体積立保険の振込承認をするたびに、「純金積み立てコツコツ♪」というCMがこれまたエンドレスで鳴りだします。もういや。





久しぶりのカフェ・モンタージュで、シューベルトの「美しき水車小屋の娘」を聴きました。

 2017年4月2日@カフェ・モンタージュ
 シューベルト 「美しき水車小屋の娘」D795
  ペーター・シェーネ(Br)
  武田牧子・ヘルムス(Pf)

40人ほどのキャパのカフェでシューベルトを聴く。考えただけでわくわくするようなリサイタル。さぞかしインティメートな一時間だろうと予想していたのだが、ピアニストが野太い音で序奏を弾きだした瞬間「あれっ?」と思いました。数秒遅れてバリトンが歌いだした瞬間、ああ、この声も身振りも大柄な歌にはこの伴奏しかないのか、と納得するものがありました。物理的に声がデカいという訳ではないが、もう少し大きなホールのほうが聴き映えがするだろうと思わせる声。ドラマティックというより、演劇的と言ったほうがしっくりくる感じがしました。
シューベルトの作品の中でも最も抒情的と思われがちなこのツィクルスが本当に凄いのは、こういった演劇的な歌唱であっても何の違和感もないところでしょう。この作品の白眉は、第17曲「いやな色」と第18曲「しぼめる花」の落差にこそあったのだと気付かされる。この二曲の間にはほとんど深淵といってよいぐらいの虚無が広がっているようにも思います。それ以前にも、あちこちに現れる長調と短調の交代、あのシューベルトの音楽のトレードマークのように言われながらも、どちらかといえば垢抜けない、素人臭くさえ思われたメチエが、シェーネの歌唱では千々に乱れる心そのものの表現として聞こえるのにも驚きました。
ただ、この日の歌唱の全てを肯定するつもりはありません。本当に息もつかせない演奏ではありましたが、心を揺さぶられるような思いはありませんでした。CDなどで聴いてきて、下らない三文詩人の詩がどうしてここまで昇華されるのか、なぜ涙を禁じ得ないのか、と不思議に思う経験もしてきたのですが、この日の演奏にそこまで思わせるものはなかったという他ありません。では、何が足りなかったのか。
これは本当に言語化するのが困難ですが、一つは歌い過ぎ、ピアノも鳴らし過ぎ、会場が狭すぎ、といった身も蓋もない言い方になるのでしょう。だがもう一つは(私の信条としてあまり形而上学的な言説は弄したくないのだが)、なぜシューベルトがこのツィクルスにおいて、有節歌曲の形式と、より自由度の高い形式を対比させながら書いたのか、という考察の有る無しに関わるような気がします。心の欲するところに従い則を超えず、ではないが、最初の「さすらい」からして、歌手もピアニストも、どうもこの則を超えて奔放に走ってしまった感がある。有節歌曲の頸木とシューベルトのイマジネーションのせめぎあいがあればこそ、「しぼめる花」の後半、形式を大きく逸脱して、長調に転じてからの音楽の広がりが聴き手の涙を絞るのだろうと思うのですが、終にそのレベルには至らなかった、それどころか、最後の2曲が付け足しのように聞こえてしまった、ということでしょう。これは芸術家の円熟といったことではなくて、分析的アプローチの有無の問題という気がします。
だが、つらつら思うところはあっても本当に良い歌唱だったと思います。声質も容姿も気持ちよく、まだまだ伸び代のある歌手と思いました。
武田牧子・ヘルムスの伴奏、冒頭にも書いた通り野太く歌手に負けないピアノ。終了後のトークによれば、ずいぶんと久しぶりの合わせで、シェーネが前日に日本に着いたためリハもほとんど取れなかったようですが、歌にぴったりと寄り添ってどんなに劇的であっても破綻しないのはさすがです。ペダルが少な目なのは良いとして、もう少し余韻のようなものがあれば、というのは私の悪い癖の無い物ねだり。

最後にどうでもいい話。今回のチラシには「水車屋の娘」とあって、店主のトークによれば、彼女は粉屋の親方のお嬢さんであるので、水車「小屋」の娘ではなく「水車屋」という呼び名がよかろう、とのこと。私は以前ブリテンの「真夏の夜の夢」に関して書いた通り、作品の表題で逐語訳をしても仕方がないし、長く親しまれ、日本語としてのリズムが良い呼び名でいいと思っているので、断然「水車小屋の娘」派です。そんなに原義が大切なら「美しき製粉業者の娘」と呼んだらいいんじゃないか。ま、どうでもいいんですが(笑)。
(この項終り)

by nekomatalistener | 2017-04-07 01:01 | 演奏会レビュー | Comments(2)
Commented by ぞんじん at 2017-04-15 01:20 x
うちの会社のごうだ(郷田)君は、太陽光だゴーダ!の掛け声とともにビールを一気飲みさせられてます(笑)。おやすみなさい。良い休日を。
Commented by nekomatalistener at 2017-04-16 21:52
> ぞんじんさん
枕に反応があると筆者としてはちょっとうれしい。けっこうネタに困ってたりすると、なんでこんなことしとんの?と思いますけど。
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