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カフェ・モンタージュでウェーベルンを聴く

ジャコウソウモドキというピンクのかわいい花を咲かせる植物があるのだが、その英名をPink Turtleheadというんだって。ピンク色の亀の・・・いや、いいんですけどね別に。ちなみに花言葉は秘密の生活。





京都のカフェ・モンタージュで面白いリサイタルがありました。

 2017年6月24日@カフェ・モンタージュ
 ウェーベルン
  シュテファン・ゲオルゲの「第七の指輪」による5つの歌曲 Op.3(1908-9)
  シュテファン・ゲオルゲによる5つの歌曲 Op.4(1908-9)
  4つの歌曲 Op.12(1915-17)
  ヒルデガルト・ヨーネの”Viae inviae”による3つの歌曲 Op.23(1933-34)
  ヒルデガルト・ヨーネの詩による3つの歌曲 Op.25(1934)

 太田真紀(Sp)、塩見亮(Pf)

またまた企画の勝利というか、ウェーベルンのピアノ伴奏による歌曲だけ集めて一夜のリサイタルを組むなど、このカフェ以外にありえないプログラムという気がする。何せウェーベルンの作品はどれもこれも短いので、このプログラムだと正味35分といったところ。それを店主のトーク→Op.3&4→トーク→Op.12→トーク→Op.23&24でようやく1時間ほどのリサイタルとした訳だが、店主も仰っていた通り、通常の演奏会だと、ウェーベルンの作品というのは他の作品に呑み込まれてしまって印象に残りにくい。確かに、いろんな演奏会でウェーベルンを聴いてきたような気がするが、大方は前座もしくは刺身のツマ扱い、シェーンベルクやベルクの作品とセットにする場合が多いようだが、それでもウェーベルンが主役という演奏会はなかなか考えにくい。今回のリサイタルは、そういった意味でウェーベルンを聴くには理想的な一夜だったと思う。もちろんアンコールは無し。一切の夾雑物を排してウェーベルンだけを聴けたのだから、何の不満もない。

個人的な話になるけれど、私が初めてウェーベルンを聴いたのは、まだ高校生の頃だったと思うが柴田南雄氏が司会をしていたNHK-FM「現代の音楽」で、当時ようやく日本語解説のついたLPが発売されたブーレーズの旧全集(全集といってもLP4枚組)の紹介があり、たしか「弦楽合奏のための5つの小品(Op.5の弦楽合奏版編曲)」を放送していたときだったと思う(この番組のオープニングもウェーベルンの「6声のリチェルカーレ」の編曲だったが、それと知らずに聴いていた・・・いや、ポリーニの弾いた変奏曲Op.27は既に聴いていたと思うが、その時はまだウェーベルンの真価が分からなかった)。これは凄い!と思って早速LPを買い、それから40年弱、LP→CD→ブーレーズの新全集、と何度も何度も聴いてきて、やはり私にとってかけがえのない音楽だと思ってきた。それでも、ピアノ伴奏の歌曲については、管弦楽伴奏の歌曲やカンタータ、室内楽などに比べるとどうしても影が薄くて、スコアが頭に入るほど聴いてきたとは言えない。本当にこのリサイタルを聴いて、改めて「歌曲も凄い」と思った次第。
ウェーベルンという人は、Op.1の「パッサカリア」からOp.31「第二カンタータ」まで驚異的な完成度を貫いた人ゆえに、通常の意味での成長とか円熟というものがあまり感じられないのだが、歌曲だけをこうやって年代順に聴いていると、その様式の微妙な変化とともに、作品がどんどん純化されていくのが手に取るように分かる。演奏技巧の困難さとか複雑さはOp.20の弦楽三重奏で極限に達したのち、Op.21の交響曲以降は打って変わってシンプルで静謐な書法に転じ、まるで小さな鉱物の結晶のような音楽を書き出すのだが、そういった意味ではやはりOp.23と25のヨーネの詩による歌曲が圧巻だと思った。この歳になって改めてこれらの作品の真価を知ることになろうとは思ってもみなかったが、そんな機会を与えてくれたカフェ・モンタージュの店主には本当に心から感謝したい。ちなみに、店主のトークは、まぁそんなにびっくりするような情報はないのだが、それでもウェーベルン愛が溢れていて実に結構。「ヴェーベルン」と発音するのもこだわりが感じられて良い。私は「ヴァーグナー」を普段「ワーグナー」と書いたり話したりするので、このブログでは「ウェーベルン」と書いているが、友人と話すときは「ヴェーベルン」派かな。このあたりはあまりこだわりはないのだが・・・。

演奏も大変良かったと思う。太田真紀の声は声量や表現の幅が非常に広く、控えめなビブラートが作品にとてもよく合っている。ウェーベルンだからといって、あまりにも虚弱な演奏は好まないので、これは私にはとても好ましい。塩見亮のピアノも歌の邪魔をせずいい感じ。このカフェのアンティークなスタインウェイのアクションは、最近さすがにガタが来ているように思えるのだが、それも音色の暖かさと近しさをもたらしていると言えなくもない。ただ音の消え際に若干ビリつくのと高音域のムラはもうちょっと整備してほしいと思った。
(この項終り)

by nekomatalistener | 2017-06-25 23:33 | 演奏会レビュー | Comments(0)
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