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モンテヴェルディ 「ポッペアの戴冠」  ラ・ヴェネクシアーナ

リツイートの代わりにコピペ。
千々岩英一 ‏@EiichiChijiiwa トリフォノフは髪型を角刈りにしても「リストの再来」と言われるのでしょうか?



音楽三昧の三連休の最終日。
台風直撃を目前に、あわや公演中止かと思っていたら開催強行。でもJRが停まるなどで行けなかった人には払い戻しもするそうな。そんな訳で、元々このようなオペラにはバカでかいホールは不向きだというのに、この日の大ホールは出演者が気の毒なほどガラガラ状態。しかし、渾身の演奏によって、芸文の大ホールが音で満ち溢れるのがまるで奇跡のようでした。


  2014年10月13日@兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール
  モンテヴェルディ 「ポッペアの戴冠」(ナポリ稿)

    ポッペア: ロベルタ・マメリ(Sp)
    ネローネ: マルゲリータ・ロトンディ(Ms)
    オットーネ、セネカの友人: ラファエレ・ピ(CT)
    オッターヴィア: セニア・マイヤー(Ms)
    セネカ: サルヴォ・ヴィターレ(Bs)
    アルナルタ: アルベルト・アレグレッツァ(T)
    乳母、兵士2: アレッシオ・トシ(T)
    ドルシッラ、美徳: フランチェスカ・カッシナーリ(Sp)
    ヴァレット、幸運: アレッサンドラ・ガルディーニ(Sp)
    愛、侍女: フランチェスカ・ボンコンパーニ(Sp)
    兵士1、ルカーノ、解放奴隷、セネカの友人: ラファエレ・ジョルダーニ(T)
    メルクーリオ、警吏、セネカの友人: マウロ・ボルジョーニ(Br)

    ラ・ヴェネクシアーナ
    ヴァイオリン: エフィックス・プレオ、ダニエラ・ゴディオ
    ヴィオラ: ルカ・モレッティ
    バッソ・ディ・ヴィオリーノ(チェロ): 懸田貴嗣
    コントラバス: アルベルト・ロ・ガット
    アーチリュート: ガブリエレ・パロンパ
    ハープ: キアラ・グラナータ
    指揮、チェンバロ: クラウディオ・カヴィーナ


以前にもどこかに書いたことがありますが、私が高校生の頃に学校の図書館で読んだ本のなかに、イタリア・オペラには3つの金字塔があって、ルネサンス・バロック期の「ポッペアの戴冠」、古典期の「セミラーミデ」(ロッシーニ)、ロマン派の「オテロ」(ヴェルディ)がそれである、と書かれていました。もう30数年も前の話で、誰のなんという本だったかも定かではないのですが、まぁ異論は多々あれども概ね納得のいく3作ではないかと思います。
私が「ポッペアの戴冠」をレコードで初めて聴いたのは大学生の時分、私の年代で古楽に多少なりとも興味がある人間なら大抵そうであったはずだが、御多分にもれずアーノンクールがチューリッヒでの上演後に録音した記念碑的なLPでした。それから誰の演奏だったか、映像も見ているはずですが結局このアーノンクール盤の刷込みが強すぎて、他の演奏を寄せ付けないといった有様でした。
今回の演奏を聴いて、その劇的な激しさだけでなく、陶酔の極みといった音楽の美しさに私はすっかり魅了されてしまいました。これでようやくアーノンクールの呪縛から解けたような気がします。「ポッペア」の物語の面白さについては百も承知のつもりでしたが、演奏会形式とはいえ、簡単な所作とともに歌い、演じられるのを聴いていると、もうほとんど昼ドラの世界。多少は人間としてまっとうなのはセネカくらい。あとは不倫と強欲のうずまく中で、悪徳が勝利するというお話。しかも、ネローネ(皇帝ネロ)やポッペアだけでなく、乳母や召使といった脇役が打算もあらわに大活躍するというのも面白い。すこし時代が下ったバロック期のオペラで、登場人物が5,6名に刈り込まれ、ステロタイプ化するのと対照的。それにしても、最後に悪徳が勝利するというのはこの時代(17世紀中ごろ)の文芸作品にはよくあったのだろうか?驚くほど現代的なお話のように思われます。

物語の面白さもさることながら、モンテヴェルディの音楽の素晴らしさを改めて認識することができたのは何よりであったと思います。歌手たちはいずれも大変すぐれたパフォーマンスでしたが、なかでもポッペアを歌ったロベルタ・マメリは舌を巻く巧さ。ネロの前では猫がすりよるように甘やかな声で、気が遠くなるようなピアニッシモを聴かせるかと思えば、気がおけない乳母の前では尊大に目の眩むようなメリスマを歌って見せる。見た目、立ち姿もこれ以上は望めないくらい美しく、これなら愛の神ならずとも玉座に登らせたくなるというもの。
乳母アルナルタ役のアルベルト・アレグレッツァはややオーバーアクションながらも人物造形に秀でた歌い方で、400年ちかく前に書かれた音楽とは思えません(当時もオネエ歌手が歌ったのでしょうか?)。繰り返しになるけれども、このような本来なら脇役にしかすぎない人物にこれほどの充実した音楽を書いたモンテヴェルディの底知れぬ想像力には震撼させられます。
オットーネを歌ったカウンターテナーのラファエレ・ピも様式感が確かで素晴らしい歌唱。後世のナポリ派みたいなブラヴーラの愉しみはありませんが、これこそモノディ様式の真髄という感じがしました。その他、ネローネ、オッターヴィア、セネカ、ドルシッラ等々、それぞれが適確な歌い方で極上の時間を味わうことができました。今回の演奏、休憩を除くと正味2時間半くらいなので、長大なオリジナル版からはかなりカットがあるようでしたが、出来ることならもっともっと浸っていたかったと思いました。

クラウディオ・カヴィーナがチェンバロを弾きながら指揮する古楽グループ、ラ・ヴェネクシアーナの器楽演奏も概ね納得のいくものでしたが、最後のポッペアとネローネの二重唱、あまりにも甘美すぎてすこし違和感がありました。もう長いこと聴いていなかったので、「こんな音楽だっけ?」と不審におもったほど、ロマンティックな和声附けによる甘いリアリゼーションでしたが、あまりの美しさを前にすると固いことを言うのはやめておこうという気になります。いやもう好きにして、といった感じ(笑)。終演後の聴衆の熱狂はなかなかのものでしたが、意外にあっさりとカーテンコールが終わったのは台風の所為か。

蛇足ですが、芸文の大ホール、関西でも屈指の大きなハコだと思いますが、音響が良いのでこのような古楽器の繊細な響きも過不足なく聞こえます。特に私の聴いた2階前列あたりの音の響き方は秀逸。細いピンの落ちる音も聞こえそうです。最初、がらんとした2階席のはるか彼方に小型チェンバロやハープを見た瞬間の不安が杞憂におわって良かったです。
(この項終り)
by nekomatalistener | 2014-10-15 00:02 | 演奏会レビュー | Comments(4)
Commented by るー at 2014-10-15 22:26 x
うう、やっぱ、行きたかった・・・
又の機会があることを祈りますT_T
Commented by nekomatalistener at 2014-10-16 00:07
「ポッペア」は「オルフェオ」や「ウリッセの帰還」と比べるとはるかに上演の機会が多いようです。大丈夫、また機会があると思いますよ。特に鈴木雅明率いるバッハ・コレギウム・ジャパンは以前にも演奏していますが、いずれ必ず再演すると思います。
Commented by kaoru at 2017-06-21 08:45 x
わ、凄い予知能力!
今度は台風でもいきます
Commented by nekomatalistener at 2017-06-21 12:45
> kaoruさん
何の根拠もなかったんですが、意外と早く実現しましたね。私はたぶん行けませんが、ご覧になったら感想お願いします。
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