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アルベニス 「ラバピエス」考 (その1)

コトバンクで「アッチャカトゥーラ」を引くと、「アッチャカトゥーラに近い言葉」として、アッポジャトゥーラ/トゥーラ遺跡/ヴェントゥーラ/フエルテベントゥーラ島/タブラトゥーラ/コロラトゥーラ/トゥーランドット/スコルダトゥーラ/ノーメンクラトゥーラ/しっちゃかめっちゃか、と出てくる。最後のやつだけちょっと仲間外れっぽくてしみじみした味わいがある。





4年半ほどの単身生活を終えて、久々にピアノを再開しました。ただ今、アルベニスの組曲「イベリア」の中の「ラバピエス」Lavapiés を練習中。いつかは弾いてみたい曲でしたが、多分51歳の今年が、私にとってこれを弾くラストチャンスでしょう。ある種の運動神経が必要なこういった曲目の肉体的限界が近づいているのを感じます(いや、もう疾うに限界を越しているのかも)。
アルベニスの「イベリア」がピアノ音楽史に燦然と輝く傑作であることはピアノ弾きなら概ね異論がないでしょうが、以前ピアノ弾きの友人たちに投げかけた「イベリア全12曲の中でどれが一番好きか」という問いへの答えはとても興味深いものでした。とにかく人によってまちまち。「アルメリア」が好きという人もいれば「ヘレス」が最高という方もいる。各人の音楽的な志向によってこれが一番、と明確に答えが返ってくるのが面白いと思いました。
私の場合、なんといっても「ラバピエス」、次に「エル・ポロ」。どちらもメシアンが好んだ、と聞くと少し嬉しくなります。特徴的なのは、薄いガラスの破片がキラキラと輝きながら降り注ぐかのような独特の不協和音の響きです。これには一つの系列のようなものがあって、例えばサン=サーンスの「ウェディング・ケーキ」(ピアノと管弦楽のためのカプリス・ヴァルス、1886年)あたりから始まって、ラヴェルの「優雅で感傷的な円舞曲」(1911年)を経てメシアン「喜びの精霊のまなざし」(1944年)に至るひとつの大きな流れの上に乗っているような気がします。短2度や増7度への偏愛が顕著だとしても、同じフランスのドビュッシーやフォーレとは微妙に色合いの違う世界であるように思います。もちろんドビュッシーのバレエ「遊戯」やピアノのための12のエチュード、あるいはフォーレの後期の室内楽やピアノ作品のような、比類ない天才の世界はこれはこれで魅力的なものだが今は触れないでおきます。
「イベリア」については、自分の手元にはラローチャの録音だけあればそれでいい、と思っていますが、最近はyoutubeでいろんな録音が聴けるのでいくつか聴いたものの感想を備忘として記しておきます。最後の★は参考までに(最高が★5つ)。


http://www.youtube.com/watch?v=oxrsBkqNpBQ
Luis Grané
ルイ・グラネと読むのだろうか。どういうシチュエーションで撮られた動画か判らないが家庭の居間で弾いているようだ。非常に丁寧に弾いていて、対位法的な部分の弾き方が実に面白い。思わぬところからアルベニスが周到に埋め込んだであろう旋律が聞こえてくるので大変勉強になります。しかし響きを整えようとするあまり、密集した不協和な響きがすこし犠牲になっているところも。それに、あまりにも丁寧過ぎて草食性の演奏と言う感じ。もっと肉食え。
★★★

http://www.youtube.com/watch?v=x2J4SngrCOc
Rostislav Yovchev
ロスティスラフ・ヨフチェフと読むのだろうか。"Played by Rostislav Yovchev, 01.12.2009, NMA " Pancho Vladiguerov", Sofia, Bulgaria"とのキャプションあり。
いわゆる爆演系の演奏に近い。生で聴けばそれなりに面白いのかも知れないが、いくらなんでも音が汚すぎる。繰り返しの鑑賞には向かない、というか耳が悪くなる。


http://www.youtube.com/watch?v=d2CtQInrOpI
Pedro Carbone
キャプションには"Spanish piano virtuoso Pedro Carbone performs live Isaac Albeniz's complete Iberia. This is the only live video recording ever made of what is arguably the most complex set of pieces ever written for piano."とある。巨匠風の落ち着いた(というか細かいところには無頓着な)演奏には好感はもちますが、猥雑な曲想に向いているかは別。本来全曲通しできくべき演奏かも知れませんが、正直あまり面白くありません。
★★

http://www.youtube.com/watch?v=uPVte4KfJTU
アリシア・デ・ラローチャ(動画はなく音のみ)
ラローチャの録音は「イベリア」にとって記念碑的なものであるという以上に、いまだにこれを乗り越える演奏がどうも現われていない、という意味でポリーニのブーレーズの第2ソナタのディスクにすら匹敵するものであると思います。学生の頃に彼女のリサイタルを聴き、終了後サインをもらいに行ったことがあるが、その手の小ささに驚きました。あの小さな手でよくここまで見事に弾くものだ。弾く側の人間としては、いかにこの演奏に近付き、かつ離れて行くか、というのが課題。
★★★★★

http://www.youtube.com/watch?v=jE_nInYsNBg
動画はなく音のみ。
キャプションはないが、前後のシリーズから判断するとEsteban Sánchez という人のディスクをアップしたもののようだ。ライブでない分、そこそこまとまってはいるが、これといった特色や面白味もない。密集した和音の弾き方に余裕がなく色気が感じられないのもいただけない。
★★

http://www.youtube.com/watch?v=_-nH7bwB84w
岡田博美
キャプションには「2011年10月29日(土)東京文化会館小ホールで開かれた岡田博美ピアノリサイタ­ル ふらんすplus2011 より」とある。
岡田博美は私が学生のころから注視してきた逸材だが、このライブも完成度は高い。多分生で聴いたら大いに楽しめたはずだが、繰り返して視聴するとリズム感とか様式感といった点で不満を感じます。それと、華のある演奏だけれど官能というのとは少し違う。あまり他人の演奏とか聴かない人なのかな。
★★

http://www.youtube.com/watch?v=lW_Hsw17Gfo
Esteban Sánchez
これもEsteban Sánchezのものだが、先に挙げたのとは別録音のようだ。先のよりは野趣に富んだ面白い演奏だが、全体にちょっと騒々しい感じ(録音のせいだけではない)。面白く弾こうと思うとやかましくなってしまう、というのがこのラバピエスの難しさのひとつかも知れない。
★★

まだまだあります。長くなりそうなので続きは次回に。
(この項続く)
by nekomatalistener | 2014-04-03 23:42 | その他 | Comments(0)
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