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コルンゴルト 「死の都」 びわ湖ホール公演

【やっぱこっち~】
①コロプラ社のスマホゲーム「軍勢RPG蒼の三国志」のTVCMで、気まぐれ軍師たんが呟き兵士たちが復唱して叫ぶことば。
②ゴーチ&ガッキーネタに飽きてきたマスコミが最近雲行きのおかしい小●方さんのほうを見て叫ぶことば。参照→祭り。炎上。





びわ湖ホールでオペラ鑑賞。アクセスは悪いが、劇場内のラウンジから望む冬枯れの湖畔の景色はなかなか素晴らしくて、関西の文化的地盤沈下ぶりを嘆いていたのが少し癒された思いがします。

   2014年3月9日びわ湖ホール
   パウル:  山本康寛
   マリー/マリエッタ: 飯田みち代
   フランク: 黒田 博
   ブリギッタ: 池田香織
   ユリエッテ: 中嶋康子
   ルシエンヌ: 小林久美子
   ガストン: 羽山晃生
   フリッツ: 晴 雅彦
   ヴィクトリン: 二塚直紀
   アルベルト伯爵: 与儀 巧
   指揮: 沼尻竜典
   演出: 栗山昌良
   管弦楽: 京都市交響楽団
   合唱: びわ湖ホール声楽アンサンブル
   児童合唱: 大津児童合唱団


今回の公演、いろいろと残念な点は多々あれど、これだけ充実した舞台がたった2日の公演でおしまいとは、なんとも勿体無い話。しかし、日曜のマチネでもかなりの空席が目立つのではそもそも興業として成り立たないのだろう。過去のびわ湖ホールがプロデュースしてきたオペラのラインナップを眺めていると、本当によく頑張っていると思う(だって、東京ですらツェムリンスキーやベルクのオペラをそうそう観ることはできません)けれども、なんといっても関東に比べて集客力がないのは如何ともしがたい。今後このレベルの公演がいつまで続くのか、若干暗澹たる気分にならざるを得ないですが、頑張ってほしいものです。
充実した舞台、と書きましたが、内容を個々に見ていくと問題も多く、結果として満足というにはかなり物足らない舞台ではありました。マリエッタ&マリーの亡霊を歌った飯田みち代は肌理の細かい美声で、劇的であるよりは抒情的、グラマラスであるよりは知性の勝った歌い方。そのおかげで第1幕は理想的なマリエッタかと思いましたが、第2幕以降になると、その表現の知性と上品さが災いするのか、どうにも物足らなくなります。以前からこの歌手をよくご存じの方に聴くと、数年前の「ルル」のタイトルロールは素晴らしかったそうですが、同じファムファタール系の役柄でもルルとは違い、マリエッタ自体にはあまり奥行がなく、単に素性の悪い女という感じがします(その点、ルルはたとえ素性が悪くとも、娼婦に身をやつしても、最後まで天使みたいなところのある役柄)。このマリエッタを皮相的にならずに歌うには一定の下品さがほしいところ。同じ歌手がマリエッタの下品さとマリーの亡霊の品格のある悲しみの両方を歌わなければならないところがこの役の難しいところだと思いますが、飯田の歌唱はマリーと、まだ猫を被っている第1幕のマリエッタには相応しくとも、本性をあらわにしたマリエッタには不向きと言わざるを得ません。このあたり、彼女のパレットの狭さなのか、たまたま今回の役と少し合わなかったせいなのか、私は初めて聴いたのでなんとも判りかねますが、私の周りには彼女のファンがけっこういますので今後に期待してフォローしてみたいと思います。
パウルを歌った山本康寛についても、これだけの難役をよく歌い切ったと思う反面、あまりにも余裕がなくて聴いていてちょっと辛いと思いました。フォルテで音程が上がる癖も、ここぞというところでたまになら効果的でもあるのでしょうが、のべつ幕なしでは却って平板に聞こえてしまいます。神経質なビブラートはビジュアルも含めた全体の役作りに合わなくもありませんが、コルンゴルトの甘い音楽にはわずかにそぐわなさを感じるのも事実。このテノール殺しみたいな難役に果敢に取り組んだ歌手に対してこんなことはあまり書きたくはないのですが、自分自身の備忘のために感じたことを正直に書いた次第。
脇役では侍女ブリギッタを歌った池田香織が情感に溢れていて非常に優れていたと思います。この人は以前、カヴァレリア・ルスティカーナのルチアを歌っているのを聴いたことがあります。その時はあまり印象になかったのですが今回のブリギッタは素晴らしい歌唱。前から私が目をつけている清水華澄もそうだが、メゾで才能のある歌手というのは派手に人目を惹かないだけに追っかけ甲斐がありますね。フランク役の黒田博も声量があり、役に必要な暖かさもあって大変結構。フリッツ役の晴雅彦はちょっと私には合わない。ピエロの歌は全編の中でも聴きどころの一つなのでもっと甘く、人を誑し込むように歌えないものか。
その他、バレエの一座のアンサンブルと合唱は十分な水準を保っていて文句なし。
沼尻の指揮は、第1幕の「マリエッタの歌」やパウルの幕切れの歌で意外にサクサク進んでいくので何か物足りない。もっと情緒纏綿というか、蜜がゆっくり滴り落ちるような演奏で聴きたいと思いました。その点、以前この人の指揮で「トスカ」を聴いたとき感じた不満を今回も感じました。その他の部分は精密さもあり、マッスとしての音圧も十分あって大変なクオリティだと思いますが、第2幕4場と第3幕2場の、パウルとマリエッタの対決でやや冗漫さを感じさせたのがちょっと不思議。何が足りないのかうまく言葉にできませんが、指揮者の所為というよりは歌手やオケの団員も含めた皆の、様式への距離感のようなものとしか言いようがありません。余談だが、第2幕のマイアベーア「悪魔のロベール」の引用がなぜかカット。その他はほぼカットなし(だと思う。私の聴いていたヴァイグレ指揮のCDでカットされていた部分がほとんどすべて再現されていた)なのになぜここだけカット?何か理由があるんだろうがそれを知る手立てはあるのだろうか?
栗山昌良の演出の狙いとするところについては正直なところ私にはよく判りませんでした。何と言って読み替えの要素はないものの、わずかな例外を除いて歌手が正面を向いて直立して歌う。演出家の御歳から想像するに、60年代のヌーヴェルヴァーグの映画のような、例えばミケランジェロ・アントニオーニの描く「愛の不毛」とかいったもの、あるいはアラン・ロブ=グリエとアラン・レネの「去年マリエンバードで」のようなコミュニケーションの不在を連想しましたがどうでしょうか。ただ、申し訳ないが私は愛の不毛でもなんでもいいが、このオペラでそういったものを描くのってどうなのだろうと違和感を持ちます。それは単に、このオペラが舞台形式では日本初演、大半の聴衆にとって馴染の薄い作品、ということではなくて、ありていにいえばそんな凝った読み解きが必要なご大層なオペラじゃないと思うから。以前も書いたとおり、ローデンバックの原作の上辺だけを骨格に作曲者のパパが書いたくだらない夢落ちの物語に、23歳の息子が器用にR.シュトラウスの「影のない女」とカールマン風オペレッタをつなぎ合わせた基本甘ったるい音楽ですよ。聴衆としては第1幕の「マリエッタの歌」と最後のパウルのモノローグで泣かせてくれたらそれで十分だと思う。それ以上の深読みは要らないんだがなぁ。ただ、この演出、舞台のそこここからよく考えられ、練り上げられたものだけがもつ重みが伝わるので、決して思い付きのレベルではないのだと思います。軽々に否定的な物言いを憚られることは書き添えておきたいと思います。
私自身のこの作品に対するアンビヴァレントな見方のせいもあって、あれこれ批判的なことを書きましたが、関西でこれだけの舞台を観ることができるのはありがたく素晴らしいことです。実際、パウルが歌い終わってからの後奏の素晴らしさには胸を締め付けられる思いがしました。わずか11小節の間にパウルが後ろ髪を引かれる思いで舞台を去り、侍女ブリギッタが舞台に置かれていた燭台を手に取ってしずしずと退く演出も秀逸。もうこの場面を観て聴いただけで十分ではないか、とも思います。今シーズン、新国立劇場もこのオペラを取り上げているが、このあと日本でこのオペラを聴く機会はそうそうあるまい。次に聴くときにはもっと演奏者がこの音楽の様式を知悉し、こなれた演出で上演されることだろう、その時を楽しみに待ちたいと思います。
(この項終り)
by nekomatalistener | 2014-03-10 22:22 | 演奏会レビュー | Comments(4)
Commented by schumania at 2014-03-12 21:02 x
いつもそうなのですが、猫又さんの評論を拝読すると、自分が漠然と感じていたことが、ああそういうことだったのかとかなりスッキリと納得させられます。ありがとうございました。 新国の公演も楽しみです。
Commented by 加賀見山 at 2014-03-12 22:13 x
当方は土日の両日を聴きました。
歌手に関しては、初日が断然良かったと即答できます。オケも、歌手の好調に反応してか、やや固さはあったものの初日が良かったように思います。音楽的には初日はけっこう満足できました。鈴木准のパウルも良かったし、なんと言っても砂川涼子のマリー/マリエッタは本当に良かった。
初日をお聴きになっていらっしゃれば、本プロダクションのご評もかなり違うかと思います。チケット額面価格は同じでも、その価値はどんなに少なく見積もっても倍はありました。
S席1万円ちょっとであれだけの内容とは!あまりに安過ぎて主催者の事が心配になってきます。
Commented by nekomatalistener at 2014-03-12 22:39
Schumaniaさん、拙文をお褒めいただきありがとうございます。でも本当はもっと明晰に、印象批評みたいにならずに論評できたらいいのに、と思いながら言葉及ばぬまま書いています。たとえば今回の評であればマリエッタとパウルの対決の場が少し弛緩していたように思われた理由など、もっと言語化できないものかと歯痒く思っています。新国立には行けませんが、schumaniaさんの感想を楽しみにしています。
Commented by nekomatalistener at 2014-03-12 22:48
加賀見山様、コメントありがとうございます。実は他の方々のブログなどを見ていると、どうも初日のほうが歌手については良かったのでは、という気がしてました。両日行かれて断言されるのですからこれはもう決定的ですね。砂川涼子さんは昨年「夜叉ヶ池」の百合を歌うのを聴いて感心しました。今回も相当悩みながらも、今まで聴く機会の無かった飯田さんのほうを選びました。そのこと自体は後悔してませんが、コメントを拝読してますと、やっぱり砂川さんのマリエッタも聴きたかったと思います。今後ともいろいろとご教示のほどお願い致します。
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