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コルンゴルトの映画音楽を聴く

タケノコのアクの元はホモゲンチジン酸(ほもげんちじんさん)。





アメリカへ亡命した映画音楽家としてのKorngoldをコルンゴルトとするか、コーンゴールドとするか難しいところです。ウェブ検索で訪問されるクラシック音楽好きの方の便宜を図るなら断然コルンゴルトで表記すべきでしょうが、映画音楽家としての情報をウェブで探すにはコーンゴールドで検索したほうが多くの情報が引っかかるような気がします。ちなみに今回取り上げるCDの指揮者も、慣習にならってチャールズ・ゲルハルトと表記しましたが、本来ならガーハートとでもすべきでしょう。
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  THE SEA HAWK
  「シーホーク」より 「メイン・タイトル」「再会」「フィナーレ」
  「人間の絆」より 「ノラのテーマ」
  「ロビンフッドの冒険」より 「愉快な男達の行進」「戦闘」
  「革命児フアレス」より 「愛のテーマ」
  「嵐の青春」より 「メイン・タイトル」
  「永遠の処女」より 「明日に」
  「海賊ブラッド」より 「序曲」
  「風雲児アドヴァース」より 「父母もなく、名もなく」
  「霧の中の戦慄」より 「メイン・タイトル」「母と息子」
  「愛憎の曲」より 「メイン・タイトル」
  「まごころ」より 「エミリー・ブロンテの死」
  「嘆きのプレリュード」より 「メイン・タイトル」「ヴェニス」「マーチ」「愛の場面」「フィナーレ」

  チャールズ・ゲルハルト指揮ナショナル・フィルハーモニック管弦楽団
  録音年不詳、原盤は1972年リリース
  CD:RCA88697 77932 2
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  ELIZABETH AND ESSEX
  「女王エリザベス」より 「序曲」
  「放浪の王子」より 「メイン・タイトル」「男達は遊びに行く」「エピローグ」
  「風雲児アドヴァース」より 「森のなかで」
  「海の狼」より 「メイン・タイトル」「霧を逃れて」「愛の場面」「フィナーレ」
  「愛憎の曲」より 「チェロ協奏曲ハ長調Op.37」
  「砂漠の朝」より 「夜の情景」
  「人間の絆」より 「メイン・テーマ」「クリスマス」「小旅行」「子守唄」「フィナーレ」

  チャールズ・ゲルハルト指揮ナショナル・フィルハーモニック管弦楽団
  1972年2月1-3日録音
  CD:RCA88697 81266 2


先日、コルンゴルトの「死の都」についてあれこれと思うところを書きました。私としては悪口を書いたつもりはまったくありませんが、コルンゴルトが好きでたまらない人の反感は間違いなく買うことになるでしょう。しかしながら自分の中の「死の都」という音楽に対するアンビヴァレンツについて実直に記そうとすると、あのように書かざるを得ないのでした。
それにしても23歳の時のオペラでコルンゴルトという人を「こんな人」と決めつけるのも乱暴な話。壮年期のあれこれを聴きたいと思っておりました。Wikipediaに「(1970年代)二男のジョージ・コーンゴールドがプロデュースした、チャールズ・ゲルハルト指揮、ナショナル・フィルハーモニック管弦楽団演奏による映画音楽集のレコードが爆発的な売れ行きを示した頃から、コルンゴルトの音楽の再評価が始まる。」と書かれていて興味を惹かれ、これらのCDを聴きました。実に素晴らしい。ここにはおそらくコルンゴルトという人の最良の資質が顕れているのではないかと思います。そして、この中のいくつかの旋律が、後の「ヴァイオリン協奏曲」に取り込まれていることは周知のとおりです。
ちなみにこれらのディスク、RCAの”The Classic Film Scores”というシリーズのものですが、各々の映画の為に書かれたナンバーからさわりの部分を収録したもの。当然本来の音楽はそれ以外にもたくさんのスコアが書かれたに違いありません。その一部は全曲盤もあるようだが(たとえば「ロビンフッドの冒険」とか)、コルンゴルトの映画音楽の業績をざっと見渡すには今回のCDで十分すぎるくらいでしょう。
あれこれネット情報を漁っていると、どうもコルンゴルト自身は、映画の仕事は食っていくためのものであり、不本意ながら書いていたように書かれています。いつかはオペラやシンフォニーの世界に戻りたいと思いながら、戦後オーストリアに一旦戻ったものの楽壇から黙殺され、失意のうちにアメリカで没したとあります(例えば次のブログ)
http://www1.tcat.ne.jp/eden/FC/Korngold.htm
それはその通りかもしれません。しかし、たとえ食うための仕事であっても最高のクオリティで仕上げられたプロフェッショナルの仕事を、私は正当に評価したいと思います。そもそもプロの音楽家ならば、意に染まない仕事であっても最高のものを作るのは当たり前、というのが本来の姿でしょうね(ハイドンだってモーツァルトだってそうだ)。ただ、コルンゴルトの場合、無調的なイディオムにはどうやら全く関心がなかったことから、ハリウッド映画の音楽というのは(本人がどう言おうと)実は本人の資質にもっとも適合しており、内心では嬉々として作曲に取り組んでいたのではないか、という気がします。それと、前回私がコルンゴルトについて書いた「自己愛」の問題だが、この確固たるプロの仕事にはその自己愛の臭いというものが微塵も感じられないところが非常に興味深いと思います。推測ですが、自発的に内側から溢れ出るものを作品化するよりも、お仕事として(それも芸術というよりは大衆の為のエンタテインメントとして)フォーマットをあてがわれたが故に、却って「大人の」音楽を書けたのでは、という気がしました。

ひとつひとつの作品についてのコメントは止めておきますが、本当なら一曲一曲舌なめずりしながら聴きどころをお伝えしたいぐらいです。いや、やはり一曲だけコメントしておきます。「嵐の青春」”Kings Row"のメイン・タイトルですが、初めて聞いたとき、あっ、と思いました。あの「スター・ウォーズ」のテーマにそっくりです。もちろんパクリではなくてオマージュ。ジョン・ウィリアムズという稀代の映画音楽家がいかにコルンゴルトから多くを学び、コルンゴルトを尊敬していたか、聴いた瞬間に理解できました。
ゲルハルト(ガーハート)指揮のナショナル・フィルの演奏も素晴らしい。こういうエンタテインメントで決して手を抜かない職人としての心意気すら感じます。往年のハリウッドというのはこういった職人たちに支えられていた訳ですが、映画音楽という面では、この大戦前後に一気に完成の域に達せられたという風に思われます。

おまけで映画の原題と邦題を並べておきます(ALLCINEMAというデータベースで「コーンゴールド」で検索すると簡単に各々の映画のキャスト・スタッフ情報が引っ張り出せてとても便利)。

http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=446&ct=

The Sea Hawk 「シーホーク」 マイケル・カーティス監督(1940)

Of Human Bondage 「人間の絆」 エドマンド・グールディング監督(1946)

The Adventures of Robin Hood 「ロビンフッドの冒険」 マイケル・カーティス&ウィリアム・キーリー監督(1938)

Juarez 「革命児フアレス」 ウィリアム・ディターレ監督(1939)

Kings Row 「嵐の青春」 サム・ウッド監督(1942)

The Constant Nymph 「永遠の処女」 エドマンド・グールディング監督(1943)

Captain Blood 「海賊ブラッド」 マイケル・カーティス監督(1935)

Anthony Adverse 「風雲児アドヴァース」 マーヴィン・ルロイ監督(1936)

Between Two Worlds 「霧の中の戦慄」 エドワード・A・ブラット監督(1944)

Deception 「愛憎の曲」 アーヴィング・ラパー監督(1946)

Devotion 「まごころ」 カーティス・バーンハート監督(1946)

Escape Me Never 「嘆きのプレリュード」 ピーター・ゴッドフリー監督(1947)

The Private Lives of Elizabeth and Essex 「女王エリザベス」 マイケル・カーティス監督(1939)

The Prince and the Pauper 「放浪の王子」 ウィリアム・キーリー監督(1937)

The Sea Wolf 「海の狼」 マイケル・カーティス監督(1941)

Another Dawn 「砂漠の朝」 ウィリアム・ディターレ監督(1937)

(この項終り)
by nekomatalistener | 2014-03-07 19:15 | CD・DVD試聴記 | Comments(0)
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